COVID-19重症化の懸念から降圧剤を中止すべきではない新型コロナウイルス最新情報

CCOVID-19重症化の懸念から降圧剤を中止すべきではない

ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)は、コロナウイルスのヒト細胞内への侵入に関与する受容体であることから、ACE阻害薬やARBの使用により、SARS-CoV-2感染の重症化や死亡のリスクが上昇するのではないかという懸念がある。だが、現在までのエビデンスでは、投薬治療中の患者において、重症化の懸念からこれらの降圧薬を中止する理由はない、とエラスムス・ロッテルダム大学のA.H. Jan Danser氏ら3人は主張した。このレビュー論文は、Hypertension誌電子版3月25日号に掲載された。

2003年、Liらは、ACE2がSARSコロナウイルスの侵入の際の受容体であり、ウイルス表面のスパイク蛋白質(S蛋白質)と結合することを示した。細胞への侵入には、セリンプロテアーゼTMPRSS2(transmembrane protease, serine2)によるプライミング(切断)が関与する。最近の報告では、SARS-CoV-2もこの経路を通ることが確認され、またS蛋白質中和抗体とTMPRSS2阻害薬(カモスタットメチル酸塩)のいずれによっても侵入が阻止される可能性があることが分かってきた。肺では、肺胞II型上皮細胞とマクロファージにおいてACE2が発現する。ただし一般的に、肺におけるACE2発現量は、腸、精巣、心臓、腎臓といった臓器に比べて低いとされている。

ACE2とACEは相同関係があり(40%の同一性、61%の類似性)、そこからACE2が命名された経緯がある。だがACEと異なり、ACE2はアンジオテンシンIをIIに変換しないし、ACE阻害薬がその活性をブロックすることもない。相同性が見られるのは活性化する部分ではない。

ACE2は粘膜に発現する酵素で、血中溶解量は非常に少ない。ADAM(a disintegrin and metalloprotease)familyは、組織障害や炎症反応に関与しているとされ、ADAM17の関与によるACE2のシェディング(酵素的切断)で、溶解性ACE2が増加する。溶解性ACE2の増加は、血中・尿中・その他の体液中のACE2濃度の上昇をもたらす。だが溶解性のACE2が倍増したところで、2%が4%に増える程度で、96%は粘膜にある。また、この切断されたACE2はSARS-CoV2の細胞内侵入を媒介することはなく、むしろウイルスを細胞外に保持し侵入を防ぐ可能性すらある。

ソーシャルメディアにおいて混乱や懸念が生じた一因は、ACE阻害物質とACE2阻害物質が混同されたことだ。これらは2つの異なる酵素であり、ACE2活性に及ぼすACE阻害薬の影響は非直接的といえる。しかしながら、ACE阻害薬が心臓や腎臓におけるACE2の発現に影響したとする報告はある。mRNAや蛋白質レベルで、ARBがACE2発現を変化させたとする報告もある。しかしながら、結果は多様で、高用量投与を要したり、ARBの種類や臓器ごとに結果が異なったりする。

ARBが肺に良好な作用をもたらす可能性を考慮すべきことも指摘しておきたい。急性の肺損傷の場合、肺胞のACE2は下方制御される。これがアンジオテンシンIIの代謝を減らし、ペプチドの局所的増加をもたらし、肺胞透過性が亢進して肺損傷を悪化させる。この経過において、ARBの使用でACE2発現が増加するならば、SARS-CoV-2感染に対して保護的に働く可能性があると推測できる。

高血圧患者がSARS-CoV-2感染で重篤化したり死亡する確率が高くなるかを実際に調べるには、同様の曝露歴のある集団を対象とした、高血圧の有無で分けた患者コホートでの前向き研究が必要である。だが、これまでに報告されたのは、SARS-CoV-2患者における高血圧の既往の有無であり、年齢などの補正も行われていない。つまりRAS系薬剤の使用との因果関係についての議論はエビデンスを欠いている。したがって、服薬中の患者は、担当医や医療提供者から指示されない限り、現在のレジメンを中止してはならない。

血圧管理の不安定化は、薬剤の変更で起こることがあり、脳卒中や心臓発作を助長するようなリスクがある。このようなリスクは、単なる仮定の話でないことは明らかで、RAS系阻害薬が世界的に使われている状況を考えると、降圧薬を単純に中止することは、まったく勧められない。アジア人は咳が出やすいようなので、ARBのほうが好ましいこともあるだろう。

結論として、本レビュー論文の著者らは次のように述べている。動物モデルでのコロナウイルス感染と関連したACE2発現の報告から、RAS系阻害薬(特にARB)について、いくらか懸念はあるものの、これらの臨床的に重要な薬剤の使用を中断したり一時休止したりする理由は存在しない。治療から受ける恩恵は、コロナ感染悪化の素因となる、いかなるリスクの可能性をも凌駕するものである。また降圧薬を変更すれば同じリスクを伴わないかどうかも不明である。もう1つの課題は、感染患者における末期腎不全リスクへの対応である。ここでの判断は、臨床的評価を基に行われるべきで、低血圧の有無や腎機能悪化の有無など、実際の病状におけるRAS系阻害の利点と問題点を考慮すべきである。

原著論文はこちら
Danser AHJ, et al. Renin-Angiotensin System Blockers and the COVID-19 Pandemic: At Present There Is No Evidence to Abandon Renin-Angiotensin System Blockers. Hypertension. 2020 Mar 25: HYPERTENSIONAHA12015082. doi: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.120.15082. [Epub ahead of print]

引用元 : 日経メディカル COVID-19重症化の懸念から降圧剤を中止すべきではない
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