感度の低さを認めた抗原検査キットは国民の不安を拭えるか新型コロナウイルス最新情報

感度の低さを認めた抗原検査キットは国民の不安を拭えるか

「一難去ってまた一難」ということわざはあるが、「一難生じてまた一難」ということわざはない。しかし、現実の世の中では後者の事例は少なくない。しかも、この「一難」が事態を改善すべく行った結果として起きる予期せぬ難事ということも稀ではない。ヨーロッパのことわざを借りれば「地獄への道は善意で舗装されている」というものだ。

このような思いを巡らすのは、先週取り上げた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬・レムデシビルの特例承認に続いて、みらかホールディングス傘下の富士レビオが申請した新型コロナウイルスの抗原検査キット「エスプライン SARS-CoV-2」が迅速承認されたからだ。

新規抗原検査登場で起こる一般からの誤解

新型コロナウイルスの抗原検査としては国内初の承認だが、一般紙の誌面やテレビのスーパーで比較的ポジティブな印象を与える「国内初」の表現が曲者である。これに加え、結果判明まで最短で4~6時間のPCR検査に対し、抗原検査は約15~30分なので「迅速」、さらに「医療機関で行っている通常のインフルエンザの検査と同じ」という言葉が加われば、一般読者・視聴者の脳内では「新型コロナが疑わしければ、近くのクリニックですぐに検査してもらえるのね?」との変換が起こる。

しかし、検査を実施する側としてはインフルエンザ検査と同じとはいえ鼻咽頭に細長い綿棒を挿入しての検体採取では飛沫感染の危険性がある。しかも、インフルエンザとは違い、現時点でCOVID-19に特異的な治療薬もワクチンも存在しない。つまるところ現状は十分な感染防止策が取られた医療機関など、現在のPCR検査実施施設で発熱や乾性咳嗽などの症状がある人に行うことが前提となる。

実際、この抗原検査キットはまだ生産が本格化していないため、当面は患者発生数の多い都道府県における帰国者・接触者外来、地域・外来検査センターや全国の特定機能病院に供給し、順次供給対象を拡大していくとのこと。

一般向けの報道でもそのような内容を紹介している事例もあるが、読者・視聴者は見出しや印象的キーワードで把握しがちなので、前述のような脳内変換が起きてしまう。

実はかなり低い抗原検査の感度

そしてこの抗原検査キット、承認申請データを見ると何とも頼りない。PCR法との比較に基づく国内臨床性能試験成績(n=72)では、陰性一致率は98%(44/45例)、陽性一致率は37%(10/27例)。陽性検体での陽性一致率を、PCR法テスト試料中の換算RNAコピー数(推定値)に応じて比較すると、100コピー/テスト以上の検体に対する陽性一致率は83%(5/6例)。また、国内の検査検体でのPCR 法との比較に基づく試験成績(n=124)では、陰性一致率は100%(100/100例)、陽性一致率は66.7%(16/24例)、PCR法テスト試料中の換算RNAコピー数(推定値)に応じて比較した場合の100コピー/テスト以上の検体に対する陽性一致率は83%(15/18例)。

簡単に言ってしまえば「PCR検査よりも感度は低く、ウイルス量が少なければ大量の偽陰性が出る」ということだ。実際、国は陽性例をこのキットで確定診断として良いが、陰性例に対しては引き続きPCR検査の実施を前提にしている。

少なくともこれまでCOVID-19の診療最前線にいる医療機関にとっては、疑わしい症状の患者が来院時に使用すれば、より厳重な隔離をすべきかどうかを迅速に判断できるため、一定の利益があることは確かだろう。

抗原検査の登場は検査拡充に寄与しない?

一般紙では、今回の承認は、これまで一部の医師から指摘されていた「疑わしい症例のPCR検査が迅速に行われない」ことの解消、その結果としての検査件数の増加を意図していると報じている。ただ、その通りになるかは甚だ疑問を感じざるを得ない。

まず、検体採取方法は従来のPCR検査と変わらないため、検査に伴う煩雑さはまったく同じ。検体採取者にとって、より簡便でリスクが低い採取方法に変更しない限り、検体採取段階で目詰まりを起こす。

また、迅速診断であるがゆえに検査を受けた人は結果待ちのために実施場所に待機することになる。ソーシャル・ディスタンスを取れる待合スペースがなければ、待機者間での接触・飛沫感染リスクが増加する。十分な待合スペースがなければ、感染予防対策として検査場所への入場制限が必要になり、その結果として検査実施件数の制限も必要になるという目詰まりファクターもある。

さらに「迅速診断」ゆえに風邪のような類似の症状を持つ人が幅広く対象になり、結果と検査対象者の増加とそれに伴い発生する陰性者の増加が、確認用PCR検査件数を増やし、逆に現場に負荷をかけて目詰まりを起こすことも考えられる。

一方で、最も面倒なのは当面はこの検査の実施機関とはならないプライマリーケアを主体とするクリニックにちょっと風邪様症状がある人が駆け付け、「テレビでやっていた簡単な新型コロナの検査をやってください」と哀願し、現場の多忙さに拍車をかけることだ。そうして来院する人の中には真正のCOVID-19の患者がいる可能性も考慮すると、院内感染の危険性も増す。

COVID-19との暗闘に似たあの大事故

前回紹介したレムデシビルの特例承認、今回の抗原検査キットの迅速承認とも前例がなくとも部分的でも改善できるなら、いかなるものでも投入するという戦略のようだ。その意味で非常に似た様相を感じるのは、私が過去から取材し、現在も進行中の東京電力・福島第一原発の収束作業である。

福島第一原発事故は原子力事故の評価尺度である「国際原子力事象評価尺度 (INES)」 による影響度の指標で「レベル7」と判定された世界最悪の原子力事故である。同じレベルと評価されたのは1986年に発生した旧ソ連(現・ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故のみ。

チェルノブイリ原発事故は核燃料の除去を断念して石棺で封印しただけだが、福島第一原発の収束作業は、残る核燃料を取り出して廃炉に持ち込もうという有史以来前例のない事態に取り組んでいる。その意味ではすべてがトライ・アンド・エラーの連続である。私は過去にこの作業を「100個の鍵がついた扉の開け方がわからず、とりあえず鍵と名の付くものをありとあらゆるところから集め、1つ1つ鍵穴に入れて開くかどうか確かめるような作業」と表現したことがある。COVID-19に対する戦いも半ば似ていると感じるのだ。

奇々怪々な国の対応から透けて見えるもの

「だったら徒手空拳からようやく前向きになりつつあるときに、一個一個の『武器』についてネチネチとあげつらうな」との意見もあるかもしれない。だが、今回の事態を見ていると、国の「迅速な対応」と言えば聞こえは良いが、むしろ「拙速な対応」にも見えてしまうのである。

そもそもこうした新たな武器を国が特例的に投入するならば、そのメリット・デメリットを一般に広く伝えるのはメディア以上に国側の責務である。とりわけ昨今のようにメディアの多様性が増し、テレビ・新聞といった古典的メディアの役割が相対的に低下しているなかでは、なおのこと国の発信力の位置づけは小さくない。にもかかわらず、記者会見等を見ていると、どうにも中途半端な説明が先行しているように見受けられる。

また、かつてはドラッグ・ラグに代表される慎重な審査体制で知られていた厚生労働省がかくも特例承認、迅速承認を「乱発」するのはやや解せない。安倍晋三首相自ら新型インフルエンザ治療薬・アビガンのCOVID-19治療薬としての承認に言及する辺りから推察するに、こうした措置にはかなり政治主導もあるのだろう。もしそうだとするならば、非常事態の名の下に行われる政治の猪突猛進にブレーキをかける存在がいないということにもなる。

そんなこんなでレムデシビルの特例承認も、抗原検査キットの迅速承認はすんなりと腹落ちがしないのである。

引用元 : CareNet 感度の低さを認めた抗原検査キットは国民の不安を拭えるか
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