寄稿◎新型コロナの抗体検査の意義とは?
COVID-19の血清疫学についての素朴な疑問新型コロナウイルス最新情報

寄稿◎新型コロナの抗体検査の意義とは?
COVID-19の血清疫学についての素朴な疑問

西村秀一 (国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター・臨床検査科)

神戸市立医療センター中央市民病院研究チームの発表に世の医療関係者が動揺している。この発表とは、感染拡大初期に当たる時期の外来患者1000人の血液検査で3.3%(33人)が抗体を持っていたというものであり、その数値から推計すると単純計算で4月上旬までに市民4万1000人が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染していたことになるという。

しかしこの研究の詳細が分からない。分からないままに結論だけが独り歩きしている現状を筆者は懸念している。以下はこの研究の発表を聞いて感じた疑問である。

1.どのような方法で抗体を測定したのか。

2.SARS-CoV-2特異的IgMの測定なのか、IgGの測定なのか。

3.その測定法の感度、特異度はどれくらいなのか。

4.測定した33人の抗体価の分布はどのようになっているか。

5.調査対象となった外来患者のポピュレーションはどのようなものか。

年齢は?主要な症状は?その採取時期の範囲は?

研究グループは論文化のため詳細なデータを発表できないのかもしれないが、詳細とは言わないまでも少なくとも上記の情報について明らかにしてほしいと思う。事は大きくなってきており、これは急を要する話である。

このようなことを聞く理由は以下のとおりである。

1.まん延していない感染拡大初期という時期(実質流行前)にこの1000人中33人という成績は不自然であること。

オーストリアで実施されたSORAスタディーは、神戸よりも流行がはるかにまん延していた時期(人口886万人中8600人、すなわち人口の約0.1%が感染者として登録されていた時期)に市民1544人を無作為抽出しPCR検査を実施した調査だが、そこでの陽性は5人すなわち0.33%でしかなかった。それでも陽性登録者の3.3倍となりかなり高いが、その10倍となる3.3%という神戸の数字は高すぎる。

2.用いた抗体検査の特異性がわからないこと。用いた試験は本当にSARS-CoV-2の抗体だけ検出しているのか?

ドイツのグループがNatureに発表した4月1日付の研究報告中で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の急性期、回復期のペア血清で調べたところ、なんと7例中6例でSARS-CoV-2のみならず通常のかぜ症候群のコロナウイルスに対しても抗体価が上昇していた、という成績が示されている(表)。方法は、OC43、NL63、HKU1、229Eコロナウイルスそれぞれのスパイク蛋白を発現させた細胞を抗原とした抗体の結合試験である。

この成績だけからは、その逆すなわちその他のコロナウイルスに対する抗体がSARS-CoV-2抗原に反応するのかどうかはわからないものの、少なくともSARS-CoV-2と通常のコロナウイルスの間に免疫学的な交差反応性があることが示されたことになる。

実はここに紹介した論文は、以前PCRのウイルスコピー数と活性ウイルスの検出の関係を中心に日経メディカルオンラインで紹介していただいた論文である。抗体の話は論文の最後に1パラグラフだけあるだけで、表もextended dataとして報告されているものであり、その時の主題がぼけるため紹介していなかったが注目すべきデータである。

3.その他のコロナウイルスに対する抗体がSARS-CoV-2抗原に反応するかどうかは今後の研究次第だが、もしこれがあるとすれば、通常のコロナウイルスへの抗体が神戸で行われたSARS-CoV-2抗体検査に使用された抗原とも反応した可能性がある。もしそのようなことがあれば、検出した抗体がIgMであろうがIgGであろうが検出されたものは通常のコロナウイルスに感染して得られた抗体を評価している可能性が高くなる。

そうなると、対象者が病院の外来患者であったことによる陽性率に関するバイアスは相当なものとなる。つまり、OC43、NL63、HKU1、229Eといった従来から知られているコロナウイルスによるかぜ症候群の患者が集まりやすい病院の外来患者を対象にするならば、抗体保有率は高くなりやすい。採血の時期も影響するだろう。IgMを検出しているのであれば、冬から春にかけてある程度の割合で通常のコロナウイルス感染によって高値を呈するのも不思議ではない。対象者が大人で、IgGを検出する検査であっても抗体価が問題で、どのくらいの抗体価を陽性の基準としているかが3.3%という結果を評価する上でポイントとなる。

ただ、ここでの議論もすべて仮定の話である。とにかく情報が少なすぎである。この結果で右往左往するのではなく、事実が明らかになるまで評価は待つべきであろう。

なお、米国でも抗体調査がなされ、ドイツのほかのグループも抗体調査をしているようだが、いずれもここで挙げたような交差反応に関する疑念は払しょくされていないことも申し添えておく。また、本当に交差反応があり、もしもそれが感染防御に働くようであれば、以前から知られているコロナウイルスに対する個々人の抗体の持ち様が新型コロナウイルス感染症の重症化の有無にかかわっている可能性もある。さらに妄想すれば、小児で重症化率が低いのももしかしたら通常のコロナウイルスへの日常的な感染で説明がつく可能性まで話が拡がっていきそうであり、それがワクチンの開発にとってのひとつの切り口となるかもしれないことも付け加えておきたい。

引用元 : 日経メディカル COVID-19の血清疫学についての素朴な疑問
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