アビガンを使用してもよい理由新型コロナウイルス最新情報

アビガンを使用してもよい理由

アビガン(一般名ファビピラビル)は、最初の承認の時からすったもんだした薬だった。「A型またはB型インフルエンザウイルス感染症」の効能効果で承認申請が提出されたのは2011年3月。その年の10月に医薬品医療機器総合機構(PMDA)から出された最初の審査報告書には、総合評価としてこう記述されていた。

「提出された資料から、本剤については、非臨床試験成績からヒトにおける催奇形性のリスクが強く懸念され、かつ有効性については頑健性の高い結果として示されていないと考えること、また、申請効能である季節性インフルエンザウイルス感染症においては既に他の治療薬があることも踏まえ、現時点ではリスクに対して得られるベネフィットが明確になっていないと考える。したがって、今般の申請における申請データパッケージでは、申請効能に対する本剤の承認は困難であると考える」

その理由は、鍵となる国際共同フェーズ3試験の解釈の違いにあった。申請した富山化学(当時)は治験実施計画書に適合した集団を解析対象とし、最大解析対象者の1割弱を除外した。これに対しPMDAは、除外した集団も解析対象とすべきであり、そうするとオセルタミビル(商品名タミフル)との非劣性は証明されないとした。そしてこの齟齬は、3年におよぶ審査の最後まで解消することはなかった。

2013年12月の審査報告(2)には、その後の経過が記載されている。第1回専門協議(PMDAの審査チームとPMDAから指名された外部の専門員が協議を行う)が開催され、新たな作用機序を持つアビガンは、危機管理の観点から臨床現場に早急に提供することに意義があるとして、追加の臨床試験を求めることになった。またこの年の3月に鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)のヒト感染例が初めて報告され、既存のノイラミニダーゼ阻害薬に対する感受性が低いとの報告があったことから、厚生労働省と協議し、危機管理に関する追加の検討が行われた。

そしてアビガンを「既存の抗インフルエンザウイルス薬に耐性を有し、かつ高病原性のインフルエンザ感染症の蔓延に備える医薬品」として位置づけ、効能・効果を「高病原性インフルエンザウイルス感染症(ただし既存の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る)」とし、かつ通常のインフルエンザウイルス感染症に使用させない厳格な流通管理および十分な安全対策を実施することを承認条件として付与することで、高病原性インフルエンザに対する危機管理を前提とした承認は許容し得る、と判断した。

この時アビガンは、通常のインフルエンザ治療薬から新型ウイルスに対する危機管理のための薬剤へと変身した。

そして2014年1月の審査報告(3)を経て、最終的な審査報告書では、「提出された資料から、本剤の季節性のA型又はB型インフルエンザウイルス感染症に対する有効性は未だ検証されたとは言えず、米国において臨床での有効性が示唆された段階にすぎないと考える。一方、本剤は既承認の抗インフルエンザウイルス薬と異なる作用機序を有しており、非臨床での検討のみではあるものの、鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)及びA(H7N9)等に対する抗ウイルス作用は期待できることから、最近のインフルエンザを取り巻く現状をふまえると、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対して、他の抗インフルエンザ薬が無効又は効果不十分であり、本剤の有効性が期待できる可能性のある場合に、本剤を使用可能な状況にしておくことは意義があると考える」となった。

「非臨床での検討のみではあるものの」という記述が注目されるが、承認時のPMDAのブリーフィングでは担当者が「今も非劣性の証明を認めていない」と明言したそうだ。また審査報告書(2)以降には、「以上の機構の判断は、専門委員により支持された」という記述が何度も出てくる。「それでも危機管理のために必要だから」とする、外部の意見に押された結果だという声なき声が聞こえてくるようだ。

その後、承認時に要求されていた臨床試験(米国でのフェーズ3試験)の結果が出たのを受け、有効性と安全性が担保されたとして、厚生労働省は2016年11月に備蓄の検討を開始、2016年度末に4万7000人分を1億5000万円で買い付けたことを公表している。単純に計算すると1人当たり3191円。ちなみに当時、タミフルカプセルは1治療当たり3179円、イナビルは4279.8円だった。

今回、2020年4月30日に成立した補正予算では、新型コロナウイルス感染症の患者200万人分として139億円を計上している。1人当たり6950円だが、インフルエンザの場合とは投与量が異なる。

ゾルゲンスマでは審議結果報告書に異例の「補遺」

ところで最近、その承認動向が注目された薬剤に、高額な薬価の是非が取り沙汰される脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬ゾルゲンスマ(一般名オナセムノゲン アベパルボベク)がある。3月19日の承認に関し、4月8日付で異例の「審議結果報告書(補遺)」が付け加えられた。これは3月19日の薬事分科会において、「申請データの不備があるとしても品質・有効性・安全性に問題がないと判断したことについて、国には患者・国民に説明する責任があるので、何らかの形で公表してもらいたい」との意見が出されたことに対応したもの。ゾルゲンスマの品質に関する試験に、不適切なデータ操作があったことを踏まえている。薬事審議会では、「先駆け申請でなおかつオーファンであるために申請データや審査中の対応に企業の不手際があっても、あたかも許されてしまうような承認制度は是正すべきである」と厳しく指摘されている。

また承認の前提となる2月7日の審査報告書には、「申請者による以下の対応により審査スケジュールが大幅に遅延することとなった」として、先駆け指定制度の対象にもかかわらず申請者のノバルティスファーマがそれを活用しなかったこと(しかし薬価には先駆け審査指定制度加算10%が適用された)、PMDAからの照会への回答に不備が多かったことや時間がかかったことなど6項目を挙げ、「以上のような事態は極めて異例であり、機構は、このような多数かつ多岐にわたる問題は、資料の十分性の問題に留まらず、本邦の患者に適用する製品の品質、安全性及び有効性を担保するために重要な事項についての申請者の認識が極めて不十分であったことに起因すると考える」と断罪している。

どんな薬剤にもそれを待っている患者がいる。しかしその有効性と安全性は慎重に審査されなければならない。

だがアビガンは、有事のために存在してきた薬だ。ルビコン川はすでに渡っているのだ。そして今、真価が問われる時がやってきた。

引用元 : 日経メディカル アビガンを使用してもよい理由
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