米スタンフォード大での新型コロナの抗体検査は1.4%が陽性
SARS-CoV-2の抗体生成は通常と異なる
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米スタンフォード大での新型コロナの抗体検査は1.4%が陽性
SARS-CoV-2の抗体生成は通常と異なる

抗体検査を新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)の流行の状況把握や活動自粛解除のために活用するという議論が世界中で進んでいる。米スタンフォード大でも現在、1万5000人規模の抗体検査が進行中だ。この検査について、スタンフォード大学医学部病理学准教授で、ウイルスの抗体に関する研究を行っているスコット・ボイド(Scott Boyd)氏に話を聞いた。なお、今回のインタビューには、オブザーバーとしてスタンフォード大学医学部の創薬研究機関、「SLDDDRS」所長の西村俊彦氏にも参加していただいている。

――現在のスタンフォード大での抗体検査による疫学調査はどのように行われているのか。

ボイド まずは医療従事者を対象に4月6日からSARS-CoV-2に対する抗体検査を開始した。現在、1日50~100人程度の検査を行っている。4月下旬からスタンフォード大の関連病院での検査が本格的に始まったため、検査数が増えてきた。5月中旬の時点で約1万4000人に実施している。多くが医療従事者で、入院中の患者も含まれる。我々は他の調査にも参加している。医療従事者や感染した患者、そして回復した患者も含まれる。今後数カ月でこうしたデータが10万人以上集まってくるだろう(ボイド氏の取り組みはこちら)。

最も問題になるのは、実際にウイルスへの感染者が少ない場合だ。偽陽性でないことを確認するため、非常に精度の高いテストが必要になる。そのために今回のテストを開発した。

なお、4月には既にスタンフォード大のメンバーが参加する住民対象の抗体検査の結果が報告されているが、これは医学部の学生による取り組みで我々とは全く別の動きだ(スタンフォード大のメンバーによるサンタクララ郡の論文はこちら)。

――具体的にどのようなテストを行っているのか?

ボイド リサーチサイエンティストのキャサリナ・ロールゲン氏を含む私のチームで独自にテストシステムを開発した。ニューヨークのマウントサイナイ医科大学のフロリアン・クラマー氏の研究室から提供されたSARS-CoV-2の遺伝子配列情報を利用し、静脈から採取した全血の血漿で検査している。

必要な試薬は、サーモフィッシャーサイエンティフィックやシグマアルドリッチからうまく調達できた。6カ月から1年間の検査に必要な量を確保できている。

このCOVID-19のパンデミックの状況下でプロジェクトを迅速に立ち上げるのには苦労した。PCR検査やRNA検知のキットでさまざまな課題が指摘されているが、テストシステムの開発やそれに必要な試薬の調達も大変だった。また、検査数を増やすには液体をかくはんするロボットを増やす必要があるが、現時点で在庫がなく購入するのが難しい。順番待ちになっている。

COVID-19患者でも、症状が軽い人が多くいる。そうした人の抗体のレベルは低いので検出が難しい場合があり、検査を継続しているところだ。一方で、重症患者は検出が容易だ。

――精度を上げるために行っている工夫は?

ボイド ELISA法で行っている。だが、その精度を上げるために、さまざまな条件を評価した。具体的には、SARS-CoV-2に感染して陽性となっている血液サンプルを利用したり、COVID-19のパンデミック以前の血液サンプルを利用したりして、最も適切な感度と結果が得られる条件を見つけた。

結果としてSARS-CoV-2の感染者については、IgG抗体を今のところ100%検出できている。条件は症状が出てから3週間後以降に検査した場合だ。一方で特異度については、99.8%だ。これは今回のCOVID-19が流行する前年の血液サンプルなどで調べた。

――現時点で明らかになっていることは?

ボイド 今回の調査は、医療従事者や患者を対象にしている。現在(5月2週時点)のところ、検査結果が出た人の大部分が医療従事者だが、1.4%がポジティブ(陽性)という結果だった。約1万4000人のサンプルを検査した結果だ。

通常、ヒトは細菌やウイルスに感染した際、初期にIgM抗体が現れ、時間経過に従いIgG抗体ができる。ところが今回、IgMとIgGが同時に出てくるようなケースが散見された。通常の免疫反応と違うことが起こっている可能性がある。

これは驚くべき、興味深い新しい発見だと思っている。SARS-CoV-2は感染していながら無症状の状態が長く続く場合がある。免疫システムがその間、ずっとウイルスを検出し続けているのかもしれない。そのため、IgGの抗体が(IgMに対して)さほど遅れずにできるのかもしれない。ただしこれは推測だ。 こうした無症状や軽い症状の患者のケースの抗体反応については研究を継続していく必要がある。

西村 あくまでも仮説だがこうは考えられないか。今回の抗体検査の結果でIgMと同時に検出したIgG抗体は、一般的なコロナウイルスに対するIgG抗体で、以前から存在していた。そして今回の抗体検査に交差的に反応したものではないか。

ボイド それは非常に重要なポイントだ。世の中にはかぜを引き起こすコロナウイルスがまん延している。そうしたコロナウイルスに対する抗体が、「今回、SARS-CoV-2として検出されるのではないか」という疑問があるだろう。ただ今のところ、我々が得た結果からはそうした交差反応はなかったと思っている。

というのも、まずSARS-CoV-2の特徴を示す受容体は他のコロナウイルスとは非常に異なるものであること。唯一、SARSを引き起こすSARS-CoVはSARS-CoV-2と近い特徴を持っているが、米国では感染者がほとんどいなかった。

今回のテストシステムで2年前の健康な血液検体200を調べたところたった1つだけ反応があった。これはIgMについて弱い陽性反応を示していたものだった。仮に交差反応を示すとすれば、反応が1つだけというのは説明がつかない。現在、他のコロナウイルスにかかった患者の血液も調べている。

――SARS-CoV-2は、再感染する可能性はあるのか。

ボイド その問題を考える際には、我々の体にできる抗体の量と、質や機能を理解する必要がある。

SARS-CoV-2に対するIgG抗体を持っている人はウイルスを中和できているという報告がある。一方で、この抗体のレベルが低いと完全に中和できずに、再度感染する可能性があるということだろう。

また、抗体の減衰については、他のコロナウイルスと似てくると考えている。抗体が次第に減って、1年持たない場合があるかもしれない。ただ、この点は研究が始まったばかりなので、もう少し時間が必要だ。

――今回の抗体検査の結果を、医療や社会にどう活用していくのか。

ボイド いくつかの利用法が考えられる。まず1つ目は、抗体を確認できていれば、発熱などを認めた際にCOVID-19を除外診断しやすくなる。再感染のリスクについても予測できるだろう。

また、ウイルスがエリアにどの程度拡散しているのかを知ることができる。それによって行政などが結果に応じた政策を打ち出せる。

最後はCOVID-19から回復した患者の血液を利用して治療する「回復期血漿」の活用だ。今後取り組んでいきたい。実際にどの程度量の抗体が理想的に必要なのか、感染や増殖を防ぐ中和能力を知る必要もある。

引用元 : 日経メディカル SARS-CoV-2の抗体生成は通常と異なる
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