アビガン中間解析の怪、試験終了後に有効性は示せるか
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アビガン中間解析の怪、試験終了後に有効性は示せるか

Webニュースを見て「ああ、またか」とため息が出た。5月20日朝、共同通信が新型インフルエンザ治療薬アビガン(一般名・ファビピラビル)に関して、藤田医科大学で進行中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する臨床研究の中間解析で有効性が示されなかったという記事を公開した件だ。同社はメディア各社にニュースを配信する通信社でもあるため、これを機に他の報道機関各社もこのニュースを配信し始めた。

藤田医科大学側は同日夕、反論の記者会見を開催し、あくまで中間解析は安全性の確認が主たる目的であり、現時点では有効性確認は行っていないとの見解を表明した。

共同通信、藤田医科大、どっちが正しい?

そもそもアビガンに関しては、冒頭の共同通信の記事でも言及しているように、安倍首相自らが5月4日の記者会見で有効性が確認されれば今月中の承認を目指す意向を表明しているほど政治側が迅速承認に前のめりである。首相が特定の薬剤名を口にすれば、当然メディアはそれを報じ、ちまたではその断片的なニュースが勝手に増幅して期待感が高まる。

断片を増幅させる点では、今回一気に言葉だけは有名になってしまったPCR検査のようだが、PCR検査はあくまでAを増幅してもAだが、ニュースの場合はしばしばAが増幅してまったく違うBになってしまうのが厄介である。

アビガンに関しては、まさにAがBになってしまった状態で、医療従事者の中には過度な期待が高まっていることに対して警戒感・嫌悪感を持っている人も少なくない。今回、共同通信にこのような記事が出たのも、そうした感情を持つ関係者によるリークの可能性がある。

結局のところ藤田医科大学が中間解析は「試験継続の是非を検討するため主に安全性に重点を置いた」との主張はおおむねそうであろうが、参考値として算出したウイルス量低減効果は共同通信が報じたように現時点で有意差はなかったのが本当のところだろうと推察する。

藤田医科大アビガン臨床研究に見える疑問点

だが、そもそもこの藤田医科大学による臨床研究が真の意味でアビガンの有効性を示せる試験になるかそのものに私は大いに疑問がある。

この臨床研究は無症状・軽症のCOVID-19患者でのアビガンのウイルス量低減効果の検討を目的とした多施設非盲検無作為化試験である。対象は86例で、試験開始日から10日目までアビガンを服用する群と試験開始6日目~15日目までアビガンを服用する群との比較試験である。今回報道されたのは、うち40例での中間報告らしい。

主要評価項目であるウイルス消失率は、両群とも試験開始6日目に測定する。投与開始時期に差を設けることで事実上治療開始から5日までをアビガンvs.プラセボという立て付けにしているのだろう。これは致死性のあるウイルス感染症に対するプラセボ使用に倫理面から追求を受けることへのエクスキューズと見るのが順当だろう。

さてここで私が考える疑問点を順次示したい。

ご存じのようにCOVID-19患者の8割を占める無症候・軽症者は、大掛かりな医療的介入がなくとも回復することが知られている。だとするならば、プラセボ投与による事実上の無治療(厳格には対症療法のみ)も倫理的には許容されるはずである。この試験デザインで自然回復と薬効の違いを明確かつ厳格に見ることができるかはやや疑問である。

また、無症候・軽症患者が対象となると、定量指標は体液・血液中のウイルス量の変動にならざるを得ないだろう。しかし、一部のウイルス感染症ではウイルス量が減っても、感染によって発生した炎症がその後、ウイルス量と無関係に独り歩きして症状の治癒まで時間を要することもある。COVID-19でも感染によって引き起こされた心血管炎が重症化につながるとの仮説もあり、ウイルス量の低減効果が必ずしもその後の良好な転帰につながらない可能性がある。

一方、少なくとも報道を見る限り、共同通信が記事化した中間解析結果というのは、日本経済新聞の報道によると、第三者機関の勧告を意味しているらしい。結論から言えば、藤田医科大学が主張するように安全性には問題がないと第三者機関は結論付けたとは言えるだろう。ただ、第三者機関が有効性のデータをまったく目にしていないとは思えず、もし最初の5日間で両群に目を見張るウイルス量低減効果の差があれば、今後の臨床研究参加患者や他の臨床研究試験参加者の不利益を考え、試験の中止を勧告するはずである。

「対象症例を増やせば、統計学的有意差が出るのでは?」という意見もあるだろう。これに対しては前回のレムデシビルの件でも触れたように、統計学的検討では症例数を増やせば微小な差も有意差として検出できる特性があることを考えれば、そのような意見、したがって出る統計学的有意差とは「その程度の小さな差」に過ぎないことになる。

さらに無症候・軽症のCOVID-19患者が特段の医療的介入なしで回復すると言われている中、ご存じのように催奇形性の危険性を指摘され、かつ高価なアビガンを投与することはコスト・パフォーマンス、リスク・ベネフィットの点からも疑問符が付く。本来、COVID-19でのアビガンの効果を検証するならば、重症患者を対象に主要評価項目はハードエンドポイントである死亡率にすべきだろう。それで明確な効果が示せる薬剤ならば、COVID-19におびえる国民の期待にも沿えるというもの。

やや辛い言い方になるが、そもそもこの試験のデザインそのものが、フルマラソンが怖いのでハーフマラソンにした的な腰が引けたものに映る。いずれにせよ今現在公開されているデータでアビガンがCOVID-19に有効といえるようなものは、ほとんどないのが実情である。

衣類の防虫剤CMの「タンスにゴン」の合言葉のごとく「新型コロナにアビガン」という趣旨を声高に叫んでいる政治家とテレビに登場する魑魅魍魎的なコメンテーターの一部にはお黙りいただきたい。適切な情報を発信するための一里塚は、科学的に厳格なデザインの臨床研究結果が明らかになることである。

引用元 : CareNet アビガン中間解析の怪、試験終了後に有効性は示せるか
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