接触確認アプリはこのままでは意義は少ない
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接触確認アプリはこのままでは意義は少ない

6月19日に公開されて以降、7月17日までに国内で471万件ダウンロードされた新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)。接触確認アプリとは何なのか、また公開までの経緯について、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターヘルスケア・データ政策プロジェクト長で、COCOA以外の民間のコンタクトトレーシングの開発プロジェクトにオブザーバーとして参加していた他、内閣官房テックチームの接触確認アプリに関する有識者検討会議の委員としても参加した藤田卓仙氏に話を聞いた。

――日本の接触確認アプリとはどのようなものですか。

藤田 COCOAはスマートフォンのBluetoothの機能を用いて、新型コロナウイルス感染者と濃厚接触した可能性があるユーザーにそのことを通知するアプリだ。このような接触確認アプリは、取得するデータの種類が多いほど、実効的な対策を打ちやすくなる一方、プライバシーへの懸念がある。

各国で開発されている接触確認アプリの利用目的は「接触度に応じた施設や地域への立ち入り制限・感染者隔離のためのツール」、「公衆衛生当局による濃厚接触者の把握のための補完ツール」、「通知を受けた接触者の行動変容による感染拡大防止の、個人向けのツール」の3パターンに分類できる。日本のCOCOAはこのうち3番目の目的のみで、感染者との接触確認の通知を受け、自ら外出自粛など行動変容を意識することで感染拡大防止に寄与することが期待されている。また、海外と比べても個人のプライバシーに配慮した形をとっており、位置情報や電話番号を取得しない他、基本的に個人を特定する情報を利用しないのが特徴で、接触者のデータはそれぞれのユーザーのスマホ内で管理している。

――日本の接触確認アプリが登場するまでについて教えてください。

藤田 シンガポールで3月、新型コロナウイルスの感染者に接触した人を追跡するためのスマートフォン用アプリ「Trace Together」が公開されたことを契機として各国で接触確認アプリの開発が始まった。ただ、Trace Togetherは、国による監視の側面も強く、日本で使うにはプライバシー侵害のリスクがあった。そこで、日本でも複数のチームが、扱うデータを最小限にとどめたり、国が管理するサーバーではなく各端末だけにデータを残す形にしてプライバシーを配慮したアプリにすべく開発を進めていた。私もそのうちの1つにオブザーバーで参加していた。

そんな中、4月10日にAppleとGoogleが共同で、接触確認アプリ用のAPI(OSとの接続ツール)の開発を発表した。このAPIを使えば、1からアプリを作るよりもBluetoothの電力消費量を押さえる形でバックグラウンドで作動できるし、アプリストアでの承認プロセスも早期に進めることができる。そのため、日本でもこのAPIを採用することになった。その後、AppleとGoogleは、接触確認アプリは保健当局が認めたものに限定し、かつ1国1アプリのみ認めると発表したことから、流れが変わった。

当初わが国では「国として複数、適切なアプリを認定しよう」として、プライバシーやセキュリティーについてのガイドラインを作る議論が進んでいたが、最終的にCOVID-19 Radar Japanのものが採用されることになった。複数のアプリが開発されていた中で、COVID-19 Radar Japanのものが採用された理由は担当ではないので分からないが、厚生労働省には新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)もあり、それと連携を取りやすい形にしたのではないか。

――先生が入っておられた内閣官房テックチームの有識者検討会議ではどのような内容が議論されたのでしょうか。

藤田 私が有識者会議に呼ばれたのは、所属する世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターが世界経済フォーラム、経済産業省、民間シンクタンクとで共同設立された官民共同プラットフォーム組織で、接触確認アプリの海外の動向を把握しており、かつ医療情報やプライバシーに関わってきた人間だからなのだと思う。

有識者検討会議が立ち上がった際には、「行動変容と感染拡大の防止」という、日本における接触確認アプリの目的は既に決まっていた。また、正式に厚労省による開発の方向性が定まったところで、政府の有識者会議が立ち上がった形だ。AppleやGoogleが電話番号などの情報は取らないという方向性を決めていたため、有識者会議での議論はあまり紛糾することはなかった。むしろ、私が、「プライバシー保護の観点から情報を取らないのはいいが、保健当局は本当に情報が集められなくてよいのか」と問題提起したほどだ。

AppleやGoogleのAPIを使うと決めたとはいえ、これらの企業にどのような情報が渡るのか、またそのセキュリティーのあり方や機微な個人情報を扱うHER-SYSとつなぐ部分の管理などについては、有識者検討会議で議論となった。例えば、陽性者に個別に振られる番号は個人を特定できる要配慮個人情報になるため、きちんと同意を取るなど、個人情報としての配慮を行いましょう、などといった話だ。

――現状の普及状況はどのように評価しておられますか。

藤田 ほぼ同時期に公開されたドイツの方がいいペースで広がっており、日本はそういう意味では芳しくない。エラーの問題もあったし、公開当初の広報が不十分だったということだろう。また、接触確認アプリは、現時点では導入した人が安心感を得るもの以上の効果は少ない。これから先、普及させていこうとするならば、他のメリットを用意する必要があるのではないか。

藤田 このメリットは、例えばCOCOAで濃厚接触者と分かった際には、症状がなくても優先的にPCR検査を受けられたり、連絡が付きにくいと言われる保健所にすぐに連絡できる仕組みなどが考え得る。

もっと早く公開すべきだったという意見もあるが、COCOAの公開は、APIを使ったアプリとしては早いほうだ。接触確認アプリ全体でみても6、7番目で、決して遅かったわけではないと思っている。

――将来的に接触確認アプリがOSに組み込まれるという話もあります。

藤田 4月にAppleやGoogleがAPIのリリースを出した際、OSに機能を組み込むことも合わせて発表している。OSに機能を組み込むことになれば、運用はスムーズになるだろうし、国をまたいだ接触確認のアプリ間の相互運用性の確保は望ましいことである。ただ、両社が現在どのような機能を組み込もうとしているかは分からないし、改めて国民の理解を求めたり、プライバシーの配慮を考える必要がある。OSにCOCOAを組み込むのか、新しいアプリを組み込むのかは分からないが、各国でいろいろなアプリがある中で、日本のものをそのまま組み込むとは考えにくい。共通で必要な機能が組み込まれて、HER-SYSとの関係の部分やアプリとしての“ガワ”の部分は残るのではないか。

――アプリの普及に対して、これまでの国の対応に問題はなかったのでしょうか。

藤田 国は、最終的な仕様を示すまでの過程の議論をもう少し丁寧に国民に説明すべきだったのではないか。緊急時なので仕方のない部分はあるが、他にどのような選択肢があったのか、またなぜその選択肢を選んだのかを、国民や有識者に見えるようにする必要がある。

例えば、位置情報を使わないのは、プライバシー上はよいし、法的な課題はあるが、公衆衛生目的上の必要性がある場合もあるはずだ。AppleやGoogleのAPIを使うと決めた理由についても、どのような比較検討がなされたかという説明が今後のためにも示されたほうが良いのではないか。詳細な議事録である必要はないが、簡単なものであっても後で分かるような資料が必要だ。

また、プライバシーの心配についても、政府からももっときちんと説明してほしい。こういう仕組みなので、こういうところは心配ない、ということを国民に理解してもらう必要がある。COCOAは一部説明では個人情報を取得しない、とされているが、正確には個人情報を取り扱う部分もある。それを政治家も含めて十分に理解できていないところがあって、「個人情報を取らないので安心してください」と説明してしまう。厳密にいうと不正確な部分があったため、批判されていたのではないか。

――接触確認アプリで、COVID-19の感染拡大を抑えることができるのでしょうか。

藤田 オックスフォード大学の研究で、全人口の56%が接触確認アプリを利用すればロックダウンと同等の効果があると報告されている。だが、実際には利用が任意であり、スマートフォンの普及率の限界がある以上、そこまでの普及はなかなか難しい。単体のアプリにそこまでの効果を期待するのではなく、後述するQRコードを用いた位置情報システムの登録などと組み合わせて利用していき、アナログでの仕組みも一部併存するのが現実的だろう。ただ、接触確認アプリだけであっても、感染が広がっている地域で特に普及したならば十分に効果を発揮するのではないかと思う。

第2波、第3波に備えるため、接触確認アプリ以外にどのようなツールがあり、それぞれどのようなプライバシー上のリスクがあるのか、またどのように組み合わせていけるのかという議論は継続していきたいと考えている。

――今後、接触確認アプリはどのように広げていけばよいのでしょうか。

藤田 先に述べたように、いくつかの組み合わせにより有効な感染管理・防疫の仕組みになっていくのではないだろうか。例えば、店舗やイベント会場などに、何かあればメッセージを送れるよう登録するためのQRコードを設置して、その店舗で新型コロナウイルス陽性例が出た場合にメッセージを送るような仕組みと接触確認アプリとの組み合わせは、シンガポールなどでも導入が進んでいる。接触確認アプリはスマホ同士が近づいたことを個別に確認できるメリットがあるが、どこにいたかという位置情報は持っていない。そこに位置情報を把握するアプリを組み合わせるというわけだ。感染者がどのエリアにいたかを確認することは、オリンピックなどのイベントでのクラスター対策でも役立つはずだ。現在、QRコードを用いたシステムについては、各都道府県で独自に作られているが、国として統一してもよいのではないか。

もちろん、クラスター対策にこうしたデータを用いる必要があるかどうかは公衆衛生や法的な判断や議論も必要だ。普段は個別の情報を取得しなくても、「ある一定の条件を満たした状況になったら個別の情報を取得する」といいった基準を決めてもいいかもしれない。

他国との連携も必要だ。接触確認アプリは世界中で独自に作られているが、例えば訪日する海外の人に日本のアプリを入れてもらうのは現実的ではない。欧州では既に相互運用性の話も進んでいる。

実は、7月9日から世界経済フォーラムでは安全な国境往来に向けたプロジェクトを進めている。安心して往来できるようになるにはどのような基準が満たされるべきかを検討し、そのデータを個人のスマホに入れる、といったことを議論している。例えばPCRの結果や体調に関するデータをスマホで持ち歩くわけだ。iPhoneにはヘルスケアアプリが初期からインストールされているが、Androidにはない。その穴を埋めるべくCOVID-19の流行前からロックフェラー財団らがThe Commons Projectという取り組みを行っていた。今回、世界経済フォーラムと連携し、国際的な往来の際に提示する新しいアプリを開発している。このアプリに接触確認アプリをどのように組み込んでいくか、というのは今後の議論となるが、「陽性者と接触していない」という情報も重要なデータとなるだろう。

引用元 : 日経メディカル 接触確認アプリはこのままでは意義は少ない
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