COVID-19の薬物治療はどうなる?
抗ウイルス薬の早期投与効果を早く検証すべき
新型コロナウイルス最新情報

COVID-19の薬物治療はどうなる?
抗ウイルス薬の早期投与効果を早く検証すべき

日本臨床ウイルス学会は5月1日、「アビガン投薬の要件に関するお願い」と題した提言を、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部に対して行った。日本感染症学会が発表している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗ウイルス薬投与の指針において、抗ウイルス薬の投与時期、対象について再考が必要と訴えている。この提言に関わった北里大学特任教授の中山哲夫氏から、提言の背景や狙いに関して寄稿いただいた。

COVID-19の報告例数が減少し、緊急事態宣言が解除されて以降、段階的に外出自粛の緩和が進んでいます。しかし、油断することなく、先行き不透明な第2波に備える必要があります。我々は臨床ウイルス学的見地から、比較的軽症であっても肺炎の所見を認め、増悪傾向がある場合には医師の判断に基づき副反応とのバランスを考慮した上で、重症化を予防するためにファビピラビル(商品名アビガン)をはじめとした抗ウイルス薬の早期投与の是非を検討することが必須であると考え、その有効性と安全性を適切な手法により評価することを提言します。

はじめに

2019年12月に中国・武漢で急性肺炎の流行が確認され、後にCOVID-19と名付けられた新興感染症は、わが国だけでなく世界各地に感染が拡大しました1)。4月上旬には毎日全国で数百例の新規感染者が報告され、4月7日に7都府県を対象に緊急事態宣言が発令、16日からは対象が全国に拡大され、外出自粛が求められました。わが国の感染者の報告例数は6月9日現在1万7000人超、死亡者数は900人を越えています。

5月に入り感染者数は減少傾向が続き、5月25日には全ての都道府県で緊急事態宣言が解除されましたが、前述の通り第2波の到来に備える必要があります。感染者の約81%は軽症、15%が重症の肺炎を合併し、2.3 %の致命率と報告されています2)。重症例ではウイルスの増殖により肺組織が損傷を受け肺機能が低下、全身状態も悪化し、不幸な転帰をとることもあります。この時点では抗ウイルス薬の効果は期待できず、肺の修復を待つしかありません。また、軽症例において、安定化しているように見えても急速に重症化する例が少なからず存在することから、重症化してから抗ウイルス薬の投与を検討するのではなく、発症早期からのウイルス増殖を抑えるためにも、もっと早い段階から投与を考慮する必要があると我々は考えます。

既存の抗ウイルス薬の投与開始時期に関して

抗ウイルス薬の投与は、ウイルス増殖を抑制するというその薬理作用から、一般的には発症早期でなければ有効性が期待しにくい傾向があります。多くの抗ウイルス薬は症状の軽減化、有症状期間の短縮を期待して早期投与が行われています。

主な抗ウイルス薬の使用目的と投与開始時期を示します。抗インフルエンザ薬の使用は原則として発症後48時間以内とされています3)。抗ヘルペスウイルス薬について、水痘に対する治療効果を得るには皮疹出現後24時間以内の投与が求められ、3日を過ぎると効果は期待できず、帯状疱疹に対しては原則3日以内、遅くとも5日以内に投与を開始すべきとされています4)。重症例での治療は発症時点で投与を開始することになります。ただし、臓器移植後のサイトメガロウイルス肺炎では発症後の投与では効果がないことから予防投与が行われています。

COVID-19に対する抗ウイルス薬の作用機序と有効性

抗新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)薬を、全く新規に開発することは時間がかかるため、既存の薬剤の中で効果が期待できる薬剤の治験・臨床研究が進んでいます。これらの薬剤はCOVID-19に対しては適応外使用になるので、治験・臨床研究の枠組みの中で使用するか、各医療機関の薬剤適応外使用に関する取り決めに則って手続きを行う必要があります。

レムデシビル

レムデシビル(商品名ベクルリー)は核酸アナログで、RNA依存性RNAポリメラーゼによる遺伝子複製過程を抑制する作用を有します。エボラ出血熱の治療薬として開発されましたが、RNAウイルス全般に対する抗ウイルス作用が期待され、SARSやMERSに対する有効性も認められました6)。

COVID-19に対する大規模ランダム化比較試験において、プラセボと比較して死亡率では有意差はなかったものの、回復までの期間を早めた7)ことから、5月1日にアメリカで重症入院例への緊急時使用が承認され、5月7日にはわが国でもCOVID-19治療薬として承認されました。レムデシビルは静注薬であり、対象は重症例に限定され、使用できる医療機関も制約を受けています。

ファビピラビル

ファビピラビルも核酸アナログで、RNA依存性RNAポリメラーゼによる遺伝子複製過程を抑制する作用を有します。当初は抗インフルエンザウイルス薬として開発されましたが、RNAウイルス全般への効果が期待され、高病原性鳥インフルエンザ、エボラ出血熱にも有効性を認め8)、従来の薬が効かない新型インフルエンザの流行に備えて日本国内で備蓄されていました。

中国でのロピナビル・リトナビルとの比較試験の結果、発症7日未満の軽症例において、ロピナビル・リトナビル群とファビピラビル群の間でウイルス排除までの期間や胸部CT画像による肺炎の改善に差があることが示され、ファビピラビルの有効性が示唆されています9)。同じく中国のアルビドール(ロシアや中国で使用されている抗インフルエンザウイルス薬)との比較試験では、臨床的回復率は全体で見ると有意差がありませんでしたが、中等症例における比較ではファビピラビル投与群で有意に高い回復率が認められました10)。

ただし、いずれの試験もランダム化盲検比較試験ではないので、今後の有効性の評価が待たれます。ファビピラビルは現在国内で行われている適用外使用された症例を対象とした観察研究の中間報告で、軽症例では投与7日目に73.8%、14日目に87.8%、中等症例では7日目に66.6%、14日目に84.5%において、初期症状が改善したという結果が示されました。しかし、現状では有効性の評価ができる段階にはありません。

その他の抗ウイルス薬

ロピナビル・リトナビル(商品名カレトラ)はHIVのプロテアーゼ阻害薬として用いられています。ランダム比較試験では臨床的回復率、死亡率に関して無治療群と有意差はなく、有効性は認められていません11)。ただ、同試験の投与開始は発症から平均13日となっているため、早期投与の効果については別途試験が進んでいると思います。

マラリア治療薬のクロロキン(日本未承認)、ヒドロキシクロロキン(商品名プラケニル)は細胞内pHを変化させることで細胞侵入を阻害する(宿主細胞との膜融合に関してpHに依存するウイルスもある)など、複数の機序による有効性が期待されています12)。ただ明らかな有効性は示されず、副作用の問題が指摘されています(ただし、本論文は6月4日に撤回されています)13)。

抗寄生虫薬のイベルメクチン(商品名ストロメクトール)はウイルス蛋白の細胞質から核内への移行を抑制する作用からCOVID-19に対する効果も報告されていますが、臨床試験の詳細については不明です14)。1回の経口投与のみで済むため、他剤との併用療法が考えられます。

喘息の治療薬として使われているシクレソニド(商品名オルベスコ)には抗炎症作用だけでなく抗ウイルス作用も報告されています15)。現在、国内で臨床研究が進んでいます。

SARS-CoV-2ではスパイク蛋白質の受容体結合ドメインが宿主細胞のアンジオテンシン変換酵素(ACE)2受容体に結合し、宿主細胞表面のII型膜貫通型セリンプロテアーゼ(transmembrane protease serine 2:TMPRSS2)という蛋白質分解酵素により切断され、スパイク蛋白質が活性化されることで細胞融合が起こり、感染します。膵炎治療薬のナファモスタット(商品名フサン)、カモスタット(商品名フオイパン)はセリンプロテアーゼ阻害薬としてTMPRSS 2の作用を阻害することで細胞融合による感染を抑制するとされています16)。単独ではなく、ファビピラビルとの併用も検討されています。

抗ウイルス薬以外の薬剤

COVID-19の重症化は、サイトカインストームと急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が主な原因と考えられます19)。ヒト化抗ヒトインターロイキン(IL)-6受容体モノクローナル抗体であるトシリズマブ(商品名アクテムラ)やサリルマブ(商品名ケブザラ)は、サイトカインストームによる多彩な症状を軽減することが期待されます。少数例の臨床試験17)が報告されており、わが国でも臨床試験が行われています。

COVID-19患者の回復期血漿から作成した免疫グロブリン製剤についても、対象は少数ながら有効性が報告されています18)。

COVID-19患者への抗ウイルス薬早期投与の対象は?

ファビピラビルをはじめとした抗ウイルス薬の臨床試験が行われていますが、臨床現場で簡単に使用できる状態とは言えません。日本感染症学会は2月26日付で「COVID-19に対する抗ウイルス薬による治療の考え方 第1版」をまとめ、4月28日付で「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第2版」として改訂し、その後、5月8日付で第3版、5月28日付で第4版5)を公表しました。その中で、適応外使用や治験・臨床研究として使用する場合の抗ウイルス薬の対象と開始のタイミングの参考基準として5項目が挙げられ、それを要約すると以下のようになります。

・60歳以上の患者または基礎疾患を有する患者:低酸素血症・酸素投与などの状況を考慮して投与を検討

・60歳未満で基礎疾患のない患者:酸素投与下でも呼吸不全が悪化傾向にある例で投与を検討

COVID-19は新しい感染症のため、治療開始時期に関しては今までの臨床経験から判断することしかできませんが、他のウイルス疾患に対する抗ウイルス療法と同様に、早期投与しなければ十分な効果を発揮しにくいと考えるべきです。

多くの臨床試験では、発症からの経過が長い重症例が主な対象となっていますが、ウイルス増殖がピークに達した段階では抗ウイルス薬の効果は減弱します。ランダム化比較試験の結果が待たれるところではありますが、中国政府のもとで行われた臨床試験で得られた結果9、10)などからも早期投与の有効性が示唆されていると考えます。

前述の「COVID-19に対する薬物治療の考え方」の中では、「概ね60歳未満の患者では肺炎を発症しても自然経過の中で治癒する例が多いため、必ずしも抗ウイルス薬を投与せずとも経過を観察してよい」とされています。確かに自然治癒することも少なくありませんが、重症化すれば人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)による管理が必要となる場合もあるため、入院期間が長期化して不幸な転帰を取る例もありますし、人工呼吸器やECMOによる管理は医療機関に大きな負担がかかります。抗ウイルス薬の早期投与に関する有効性はまだ定まってはいないものの、有効性が否定されているわけではありません。本来は、重症化するケースを見分けた上で、抗ウイルス薬早期投与が検討されるべきですが、重症化するか否かの判断ができない現状では、軽症の肺炎患者に対して抗ウイルス治療を開始することで集中治療を必要とする症例を減らし、救える命があると思います。

したがって、高齢者や基礎疾患を有する患者だけでなく、比較的軽症であってもウイルス学的に確定診断され、肺炎像が認められる場合には、医師の判断に基づき副反応とのバランスを考慮した上で、重症化を予防するために早期投与することが望ましいと考えます。治験や臨床研究を進める際に、低酸素血症や酸素投与が必要な重篤化した患者だけでなく、肺炎像が認められる比較的軽症な患者も検討の対象にすべきではないでしょうか。そのためにも、COVID-19が疑われる臨床症状(発熱、咳嗽、味覚・嗅覚異常など)を認めたら、迅速な遺伝子検査と胸部画像検査が実施できる体制を整える必要もあるでしょう。

幸いなことにCOVID-19患者数は減少していますが、緊急事態宣言の解除後の余波や、先行き不透明な第2波に備える必要があります。各抗ウイルス薬の有効性を明確に証明するランダム化比較試験の結果が待たれるところではありますが、それらの結果に基づき、抗ウイルス薬早期投与開始の有効性と安全性を、性急に結論することなく適切な手法により検証されることを願って提言するものです。

引用元 : 日経メディカル 抗ウイルス薬の早期投与効果を早く検証すべき
お申し込みはこちら