SARS-CoV-2は普通のコロナウイルスと何が違うのか?
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SARS-CoV-2は普通のコロナウイルスと何が違うのか?

米国立衛生研究所(NIH)のAyal B. Gussow氏らは、ヒトに感染する7種類のコロナウイルスのうち、病原性が高いSARS-CoV、SARS-CoV-2、MERS-CoVと、病原性が低い他の4種類のコロナウイルスのゲノムを比較する研究を行い、両者で異なる特徴を突き止めた。結果はPNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)誌電子版に2020年6月10日に掲載された。

現在世界各国で感染者と死者を出しているSARS-CoV-2と、SARS-CoVやMERS-CoVは、ヒトに感染することが知られている他のコロナウイルスによりもの致死率が高い。そこで著者らは、機械学習技術を応用して、致死率の高いウイルスと低いウイルスのゲノムを特徴を比較して、両者の違いを探ることにした。

コロナウイルスRNAは、6種類のたんぱく質をコードしている。pp1a、pp1ab、スパイク糖蛋白、エンベロープ、膜糖蛋白、ヌクレオカプシドリン蛋白だ。最初に、これらをコードしている遺伝子の全ゲノム解析を行い、病原性の違いに影響を与える配列を探した。その結果、病原性が高いコロナウイルスを予測できる塩基配列の領域を11カ所特定した。これらの領域がコードしている蛋白は、pp1ab(ペプチドnsp3、nsp4、nsp14)、スパイク糖蛋白、膜糖蛋白、ヌクレオカプシドリン蛋白だった。

11領域のうち、4領域に塩基配列の挿入と欠失が見つかった。このうち3つがヌクレオカプシド蛋白、1つがスパイク蛋白に局在していた。そこで著者らはこれら2つの蛋白質に分析の焦点を当てた。致死率が高いコロナウイルスのヌクレオカプシド蛋白の挿入、欠失、置換は、核局在化シグナル(2つの単節型核局在化シグナルと1つの双節型核局在化シグナル)と、核外搬出シグナルに集中して存在していた。

コロナウイルスの進化系統を考える上で、SARS-CoV-2とSARS-CoVを含むクレードでは、これらの局在化や搬出シグナルを構成しているアミノ酸がいずれも正の電荷を帯びていることが分かった。一方、MERS-CoVを含むクレードでは、主に2つの単節型核局在化シグナルが正の電荷を帯びていた。コロナウイルスではヌクレオカプシド蛋白質が、核、特に核小体に局在することが先頃報告されており、ブタコロナウイルスの動物モデルでは、この局在が病原性の上昇に関係することが示唆されている。

次にスパイク蛋白と診断学的特徴を検討した。SARS-CoV-2はACE2を介して宿主の細胞に侵入するが、この受容体との親和性はSARS-CoVよりも10~20倍高いことが報告されている。スパイク蛋白は複数のドメインで構成されており、その中にheptad repeat(7塩基の繰り返し配列)が2カ所あって、これが感染に不可欠な役割を果たす。スパイク蛋白の融合ペプチドは、1カ所目のheptad repeatの上流にあり、αヘリカル構造を取っている。著者らの解析では、致死率が高い3種類のウイルスでは、融合ペプチドとheptad repeat1の間の結合領域に4個のアミノ酸の挿入が見られた。しかし、致死率が低いコロナウイルスではこの変異は見られなかった。

最後に、種の障壁を超えてヒトに感染するウイルスの遺伝的特徴を検討するため、ヒトに感染する病原性の高いウイルスと、それらと近縁だが主な宿主動物が異なるコロナウイルスをの塩基配列を比較した。SARS-CoV、SARS-CoV-2、MERS-CoVの3種類はいずれも、最も共通の祖先に近いと考えられる動物のコロナウイルスと比べ、それぞれ独立した塩基配列の挿入が見つかった。挿入位置は、どれもスパイク糖蛋白の受容体結合ドメイン(RBD)にあり、SARS-CoVとSARS-CoV-2ではACE2との結合部位に、MERS-CoVではDPP-4との結合部位であることが分かった。SARS-CoVのクレードでは1カ所、MERS-CoVでは2カ所の挿入が見つかった。

挿入部位にはプロリン-システインのアミノ酸の組み合わせが含まれており、3種類の高病原性ウイルスは、受容体結合ドメイン内の別のシステインとジスルフィド結合する位置が異なるため立体構造が異なることが示唆された。このアミノ酸の挿入部位が異なることが、結合部位の立体構造を変えることで宿主の受容体との親和性に影響を与え、人畜共通感染を起こしやすいウイルスかどうかに影響を与えると考えられた。

これらの結果から著者らは、ヌクレオカプシド蛋白の核局在化シグナルがコロナウイルスの病原性の強さに関連し、SARS-CoV-2とMERS-CoVでは別々に起こったスパイク蛋白への塩基配列の挿入が、ウイルスと宿主細胞が融合する感染力に関与していると結論している。また、こうした研究は動物に感染するコロナウイルスの中から、将来ヒトに感染する可能性が高いものを同定するためにも役立つ可能性があると述べている。

原題は「Genomic determinants of pathogenicity in SARS-CoV-2 and other human coronaviruses」、概要はPNAS誌のウェブサイトで閲覧できる。

引用元 : 日経メディカル SARS-CoV-2は普通のコロナウイルスと何が違うのか?
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