ウィズコロナの医療を聞く 「抗体検査は手形ならず」
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ウィズコロナの医療を聞く 「抗体検査は手形ならず」

新型コロナウイルス感染症が収束するまで、ウイルスと共存する「ウィズコロナ」時代は続いていく。世界では一刻も早く終止符を打とうと、国を挙げたワクチンや治療薬、検査法などの開発競争が激しさを増す。

日本の治療体制、医療業界の実態や課題はどうみるべきか。公衆衛生や感染症対策を専門とする3人の有識者に聞いた。

英キングス・カレッジ・ロンドン教授 渋谷健司氏(公衆衛生学)

――新型コロナは医療現場に何をもたらしましたか。

「オンライン診療など必要とされながら、変われずにいた診療体制に変化をもたらした。治療薬やワクチンの開発は異常に早いペースで臨床試験(治験)などが進んでいる。進捗状況を示すパイプラインが1年以内に様々に敷かれた。それでも収束につながる治療法やワクチンの確立まで、2~3年かかるだろう」

――医療物資の輸出規制や自国の製薬企業の優遇に走る国もあります。

「専門の公衆衛生学からみても、こんなに政治化したパンデミックはこれまでなかった。外交戦略がそのままコロナ対応に反映されている状況だが、各国は分断している場合ではない。自国で封じ込めてもアフリカなど他国で拡大したウイルスが再び入る可能性がある」

――日本はワクチン開発などが進みにくいようです。

「1980年代、おたふくかぜなどでワクチンの副反応を問題とする訴訟が起こり、業界が縮小した。ワクチンは10万回に1回はどうしても副反応が出てしまう。国などが無過失補償制度をさらに整えたほうがよい。感染症対策にかかる費用が厚労省に頼りきりな点も課題だ。安全保障、国家セキュリティーの問題と考える必要がある。米国は国防省の予算も充てて有望な技術を手厚く支援している」

「米国や中国など世界各地にあるCDC(疾病予防センター)のような組織が日本にないと以前から言われてきた。アフリカにもCDCがある。省庁から独立した形で、感染症に科学的、医学的な観点から取り組める組織が必要だ。理論疫学などの分野でも、複数のシナリオが様々な研究者から提唱されて議論できるぐらい、研究者の層が厚いのが理想だ」

横浜市立大学副学長 石川義弘氏(循環制御医学)

――日本医師会でコロナ対策の有識者会議メンバーとしても議論されていると思いますが、抗体検査は感染防止の有効策になりますか。

「抗体検査は抗体の有無で、その病原体に感染したか『感染歴』を調べられる。新型コロナでは陽性としても、抗体のあることが感染防御につながるか分からない。抗体が体内にとどまっている期間は不明で、一定期間で陰性に戻る可能性もあるからだ」

「抗体があるから二度と感染しない、経済活動を再開してよいという指標にならないことを肝に銘じる必要がある。陰性なら安心という話は逆で、陰性だと今後コロナにかかる可能性が高いので要注意と考えておきたい」

「もし住民の過半数が抗体陽性なら『集団として免疫を持った』となり、コロナ感染は脅威でなくなる。東京都の陽性率0.1%は、免疫状態が流行前と同程度で集団としてほとんど免疫がない。第1波が収まっても決して油断しないことだ。『陽性』となるのは新型コロナ感染者だけかといった疑問点は、データの蓄積を待つ必要がある」

――抗体検査にも様々な方法があります。

「国内で製造販売承認を受けた抗体検査は存在しない。使用されているのは研究用試薬。少量の血液で15分ほどで検査結果が分かるのは、抗体があるかないか『白黒』を単純に調べるもの。精度が50%以下のものもある。一方、専用装置で血液中の抗体量を調べる検査は数字で示せる。精度はメーカーによってまちまちだが、ロシュやアボットなどは100%近い精度で判定できるとの報告もある」

川崎市健康安全研究所所長 岡部信彦氏(感染症対策、小児科)

――ワクチン開発は海外より出遅れた印象です。

「国内の主なプレーヤーの多くが小規模で公的な要素が強く、商業や経営の観点が弱かった。子ども向けの定期接種用ワクチン供給で組織の安定を保ち、切磋琢磨(せっさたくま)して新規開発をするだけの人的な余力や財力を生み出してこなかった。インフルエンザワクチンなどを手掛けるKMバイオロジクス(旧化学及血清療法研究所)は熊本大学、BIKENは大阪大学の阪大微生物病研究会などからできた。北里研究所などで製薬企業との連携が進んだが、最近のことだ」

「唯一、海外のメガファーマのような開発力をもつのが武田薬品工業だ。重要な時機に一気に開発を進める力があるが、2000年代に一時撤退していた。再参入後、海外企業の買収などうまく運営している印象だ。期待したい」

――政府の専門家会議委員も務められましたが、今後の課題や対策は何でしょうか。

「もとはといえば、水ぼうそうや種痘など、日本生まれのワクチンも多い。根底にワクチン開発の技術はある。需要が浮き沈みするリスクを背負える資金や組織力は十分でなく、政府など外部からの支援が必要だ」

「人々がワクチンの臨床試験(治験)に対し、一定の割合で起こりうる副反応への警戒心が強い。国内だけで治験に必要な人数を集めるのは大変だ。ワクチンの正しい理解と信頼を得る必要がある」

「新型コロナが収束しても、研究開発は続けなければならない。中国などはSARS収束後も研究を続け、新型コロナに役立った。日本ではほぼ断絶していた。せめて人が感染するウイルスの基礎的研究を続けられるよう、研究費や雇用を維持すべきだ」

引用元 : 日本経済新聞 ウィズコロナの医療を聞く 「抗体検査は手形ならず」
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