「回復後もウイルスが見つかる」現象の意味
研究の背景:「ウイルス陰性化」をどう捉えるか
新型コロナウイルス最新情報

「回復後もウイルスが見つかる」現象の意味
研究の背景:「ウイルス陰性化」をどう捉えるか

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についてはまだまだ未知のことがある。しかし、それは決して既存の微生物学、ウイルス学の常識を覆すようなものではない。今回はそのことを考えてみたい。

それは、いわゆる「ウイルス陰性化」後のウイルスの振る舞いである。

研究のポイント:口腔スワブ陰性でも肛門スワブ、血液の陽性例が存在する

研究の対象とされたのは、武漢の呼吸器専門病院においてPCRで診断されたCOVID-19患者である。この対象に対して、PCRと血清を用いた抗体検査(IgGとIgM)が行われた。

第1の検討では、39例の患者のサンプル(うち重症例は7例)について口腔スワブ、肛門スワブ、血液(全血)、血清のPCR検査が行われた。すると、15例が治療後もウイルスを有していた。口腔スワブ陽性例は8例、肛門スワブ陽性例は4例、血液陽性例は4例だった。血清の陽性例は3例で、うち2例は重症者だった。この結果は、口腔スワブが陰性でも、腸管や血液からウイルスが検出される例が存在することを意味する。

第2の検討では、別の患者を対象に時系列の解析がなされた。検討対象は、10日間の治療を受けた16例。治療の直後ではIgG、IgMともに陽転化しないことが多いが、5日たつと両方陽転化していた(5日後の陽性率はIgG、IgMそれぞれ100%、81%)。この16例でPCR検査を行ったところ、0日目の口腔スワブ陽性例は8例で、肛門スワブ陽性例は4例。5日目はそれぞれ4例と6例だった。0日目に口腔スワブが陰性であったにもかかわらず、5日目に肛門スワブ陽性となった例が4例見られた。時系列の検討からは、感染初期には口腔スワブ陽性例が多く、後期には肛門スワブ陽性例にシフトすることが示唆された。

3.やはり大事なのは「疾患」、「ウイルス」ではない

これは再三再四、僕が主張してきたことだ。感染症は現象であり、感染症=微生物ではない。両者を同じものと考えると間違える。

病院で大事なのは、疾患マネジメントである。病に苦しむ患者を治癒に導くのだ。臨床症状が改善、消失すれば、疾患は治癒である。そこで病院の仕事は終わる。「ウイルスの排除」は、病院の仕事ではない。

同様の基準は、例えばノロウイルス感染で活用されている。ノロウイルスを腸管から排除するのは困難で、時に数カ月も存在し続ける。しかし、下痢のない感染者がアウトブレイクを起こすことはまれである。手指消毒の徹底で医療者や調理者の職場復帰は可能だし、復帰させるべきだ。どうせ検査が陰性でも、偽陰性のリスクは高いのだし(これもコロナウイルスと同じ問題だ)。

同様に、コロナウイルス感染者の腸からウイルスを完全に排除する必要はない。もちろん、下痢などの症状があれば感染対策は困難だが、「無症状」であれば一般的な手指消毒以外は必要ない。アルコールが効きにくいノロウイルスより、むしろ対応は簡単である(この文章に納得のいかない読者もいると思う。そのような方は拙著『感染症は実在しない』か、EBMの教科書をお読みください)。

報道やソーシャルメディアを散見するに、臨床検査の基本・・・感度、特異度、事前確率、ベイズの定理といった診断に関するEBMの基本は、一般の方にはなかなか理解されないようだ。ベイズの定理は、統計学の巨人・フィッシャーですら否定していたのだから無理もないだろう。医師を含む多くの医療者も同様だ。検査から診断を始めるプラクティスが多い中で、「まずは検査」という考えから離れるのに困難を覚える人は多いのではないか。

が、やはり大事なのは「まずは疾患」「まずは患者」である。検査はその次だ。事前確率が低い相手に、感度の低い検査を行うのは合理的でない。こういう基本的なところから始めなければいけない。

次に、ウイルス学と感染症学のハーモニゼーションだ。多くのウイルスが無症状者から見つかることが、既に分かっている。

しかし、喉や鼻にたくさんのウイルスがいることと、それが他者に感染することとは別物である。くしゃみや咳でまき散らしたり、ウイルスに触れた手を介して広げない限り、感染症は広がらない。「感染経路」がなければ、感染は伝播しないのだ。

無症候者がどのくらい他者を感染させるかについては、データが不十分でよく分からない。しかし、感染経路のない感染症は存在しない。絶対に存在しない。新型コロナウイルスについては、環境で長く生き残る可能性が高いので(確定はしていないが)、飛沫感染もさることながら接触感染の問題が大きい。手指消毒や適切なゾーニングが大事になるのだ。

それをどのように行うかについては感染の規模、フェーズに依存するので、今、「こうすればよい」とは申し上げることはできない。が、本論文から理解できること、現場に適用できることは多々あるように思った。

引用元 : Medical Tribune 「回復後もウイルスが見つかる」現象の意味
お申し込みはこちら