「COVID-19は空気感染する」とWHOが初めて言及した背景は?
空気感染、「3密」と言ってるのだから認めて当然でしょ
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「COVID-19は空気感染する」とWHOが初めて言及した背景は?
空気感染、「3密」と言ってるのだから認めて当然でしょ

2020年7月6日、豪州、欧米、中国、日本などの研究者有志が、「It is Time to Address Airborne Transmission of COVID-19」と題した声明をClinical Infectious Disease誌に発表。COVID-19のairborne transmission(空気媒介伝播)による感染(ここではこれを空気感染とする)に対応すべきと訴えた。具体的には、「公共施設やオフィススペース、学校、病院や老健施設などで十分で効果的な換気が行えるように設備を整えるべき」というものだ。この声明に対し、世界保健機関(WHO)は7月7日の定例会見で「換気の悪い環境でのairborne transmissionの可能性」について言及。これまでCOVID-19の感染様式は接触感染と飛沫感染としていたWHOも空気感染について初めて言及した形だ。この研究者有志による声明の背景などについて、有志の一人として加わった国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長の西村秀一氏に話を聞いた。

──7月6日の声明に先生も参加されています。この声明が出された背景をお聞かせください。

西村 正直に言えば、声明を受けたWHOのコメントは「なんでいまさら?」と感じた話です。4月20日ころ、筆者であるLidia Morawska氏、Donald Milton氏らが世界中のウイルス伝搬研究者に対して送った、「こういう声明を出すが賛同してくれないか」というメールが私のところにも回ってきました。私は以前から、COVID-19には空気感染があると訴えてきたので、賛意を示しました。最終的に世界13か国239人ものウイルス伝搬を知る研究者が加わりました。

この2人を含む署名活動の主要メンバーはこれまで長年にわたりインフルエンザなどのウイルスの感染様式の研究を手掛けており、現在は世界中で猛威を振るっているCOVID-19の研究に軸足を移しています。これまで新型コロナウイルスの感染様式は、接触感染と飛沫感染とされてきました。データの裏付けなしに問答無用に決めつけられ、WHOも同様のスタンスを取ってきました。しかし、最近中国のレストラン内感染を検証した報告がなされました(論文はこちら)。それは空気感染によってクラスターとなったという明らかな事実であり、また多くの研究者らによる意見表明を突き付けられた結果、空気感染もあり得ると認めざるを得なくなり、それに対応した予防策を適切に取るべきという発表になったようです。その後、そのほかにも空気感染でしか説明できないような集団発生事例の報告が相次いでいます。

──なぜ空気感染についてこれまで言及されなかったのでしょうか。

西村 これは私の想像ですが、これまでCOVID-19による感染伝搬は接触感染、飛沫感染のみであることを前提に社会的対応が求められてきました。しかし、空気感染を認めると、それなりの対策も必要になる。だが、それでは社会的な影響が大きすぎると考え、なかなか認めることができなかったのかもしれません。

しかし、結論から先に言えば、新型コロナウイルスが空気感染をするとしても、日ごろ言われている「3密」(密閉、密集、密接)を避けることが有効です。できるだけウイルスを吸い込んでしまう機会をできるだけ減らし、感染者からの排出を減らすためにマスクをすることが大事なだけです。これまで日本で言われてきた対策と大きく変わるものではありません。

接触感染への過度の偏重の弊害

むしろ接触感染という言葉が独り歩きし、例えば流行もしていないような地域で学校の先生が毎日放課後に机やボールなど様々なところをアルコールや次亜塩素酸で消毒をしています。安心のため、あるいは外向けのポーズとしてやらざるを得ないのかもしれませんが、それに膨大な労力が割かれているのは正しい姿でしょうか。こうした対応は、感染防御にほとんど意味がないと考えています。

──接触感染と考えることの何が問題なのですか?

西村 接触感染の可能性は、否定はしません。ただ、それをことさら強調することによる弊害があちこちで見受けられます。そもそも一般的な社会環境において、物の表面にウイルスがそんなに大量に付着しているのでしょうか。もちろんウイルスに感染した方が口や鼻を手で覆ってくしゃみをして、その手でドアノブに触れた瞬間はそこにウイルスが感染性を保ったまま存在するかもしれません。しかし、次に紹介するように、それで感染する機会があちこちで日常的に起こるとは考えにくい。また、咳をすることで飛び出し、落下する飛沫による環境表面の汚染は非常にウイルスの密度が低く、生きているウイルスはいても非常に少なく、時間経過とともに簡単に失活するし、乾けばそれが手に移行する率も極端に落ちます。

クラスターを考えてみても、同じ空間で短時間に大規模感染する理由は接触感染とは考えにくい。元となった感染者からたくさんの人に感染してしまうのがクラスターですが、例えばドアノブを考えてみると、元の感染者が触ったドアノブをたくさんの人が次々に触って、その連鎖の結果としてクラスターが形成されるのでしょうか。ドアノブについたウイルスは、ほかの人が触るたびに少なくなりますし、乾けば時間とともに失活し、他の人の手には移りにくくなります。そこからの二次的伝搬はもっと効率悪くなります。蛍光塗料をウイルスに模して、ドアノブをはじめとして家中の物が蛍光で光る伝搬実験をテレビなどで見かけますが、ウイルスはもちろん蛍光塗料ではありませんし、また付着量もはるかに少ないので、ウイルスが接触感染するかどうかを検証するシミュレーションとしては不適切です。もしシミュレーションするならば、本当のウイルスあるいは百歩譲って細菌で検討すべきではないでしょうか。

やはりCOVID-19のクラスターは接触感染だけでは説明できないと思います。ウイルス感染がairborneの伝搬形式で「3密」の環境下で広がるのを無視してはいけません。

院内感染についても、手洗いは以前から言われているように徹底しているのに(むしろこれだけはしっかりとやっているのに)なぜ起きたのかと検証するとき、常に「手洗いの徹底がまだ甘かった」という反省ばかりが聞こえてきます。あるいはパソコンのキーボードのリスクを見逃していただの、防護服の脱ぎ方が悪かっただの、まるで耳なし芳一の耳探しのような枝葉末節に明け暮れているように見受けられます。換気が悪かったとか、マスクの装着が適切ではなかったといった反省は、全く聞こえてきません。それではいつまでたっても院内感染はなくなりません。

空中浮遊粒子による感染伝搬の重要性

──空気感染は、飛沫感染とは違うものですよね。

西村 飛沫感染にかなりの誤解があると思います。まず飛沫感染の定義はどんなものでしょうか。教科書的には、くしゃみや咳をすると飛び出てくる直径5μm以上の水分からなる飛沫があり、範囲に飛び散ってそれを介して感染が起きるとされています。

口や鼻から飛び出て1~2mの範囲に散った飛沫は、落下するか空気中に浮いているしかありません。空中に浮くものは普通に呼吸の際に体内に入りますが、放物線を描いて重力落下するものはどうやったら呼吸器に入り込めるのでしょうか。掃除機なみの吸引力が必要で、物理的に無理があります。

くしゃみや咳をすれば確かに飛沫は飛び散ります。しかし、飛沫の大きさは1mmぐらいのものもあれば、1μm程度の小さいものもあるでしょう。連続的な大きさの集団であり、「ある咳は5μm以上のものしか出てこない」、「あるくしゃみは5μm以下のものばかりが出てくる」なんてことはあり得ません。直径5μm以上の飛沫は2m以内に落下するというのは、あくまで無風環境下での理論的計算値に過ぎません。現実の生活空間では空気は動いており、5μm以上の粒子であっても空中に浮遊して空気の流れに乗って移動するものがありますし、それらは短時間で乾燥によっていわゆる飛沫核に変わります。現在の感染管理の教科書における飛沫感染という言葉は、こうした浮遊飛沫による感染伝播の概念ならびに飛沫核への移行の概念がすっぽりと抜けています。ですから、「飛沫感染への対策で十分」と言ってしまうと、非常に限られた状況でしか通用しない対策になってしまいます。飛沫が1~2mの範囲に落下するだけならば、2m以上距離を空けましょう、というソーシャルディスタンシングの説明と矛盾しますし、換気も不要ということになります。それは違うと多くの人が常識的に分かっているから換気するわけです。

続きは明日掲載します。話題の「マイクロ飛沫」についても解説していただいています。

引用元 : 日経メディカル 空気感染、「3密」と言ってるのだから認めて当然でしょ
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