◎COVID-19、重症化してしまう機序は?
重症化例でなぜサイトカインが暴走する?
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◎COVID-19、重症化してしまう機序は?
重症化例でなぜサイトカインが暴走する?

米Yale大学医学部免疫生物学部門Waldemar Von Zedtwitz冠教授の岩崎明子氏に聞く

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者の多くは無症状もしくは軽症で済むとされるが、重症化してしまうケースも一定程度存在する。こうした重症化例と重症化しない例にどんな違いがあるのだろうか。免疫反応に詳しい米Yale大学医学部免疫生物学部門Waldemar Von Zedtwitz冠教授の岩崎明子氏に話を聞いた。

──COVID-19の重症例で起こっているのは、IL-6やIL-1、TNFαなどの炎症性サイトカインが異常に産生されて組織障害などにつながるサイトカインストームであると考えていいのでしょうか。

岩崎 基本的にはサイトカインストームが起こっていると考えていいと思います。ただし、ごく最近、我々のグループがNature誌に報告したのですが、COVID-19の中等症例では初期のサイトカイン産生誘導後、インターフェロンなど抗ウイルス作用を持つタイプ1免疫応答やIL-17やIL-22など抗真菌作用を持つタイプ3免疫応答は漸減していくのに、重症例ではこれらタイプ1、タイプ3の免疫応答が高く維持されたままであることに加えて、IL-5やIL-13、IgE、好酸球など抗寄生虫作用を持つとされるタイプ2免疫応答が高まることが明らかとなりました(Lucas C, Iwasaki, et al, Nature, 2020 Jul 27.)。

この結果は、重症例の体内で起こっているのはサイトカインストームだけれど、それ以外に、ウイルスには関係の無い免疫の活性化が起こっていることを示すもので、この結果を見て「なぜこうした免疫反応が起こっているのだろうか」と本当に不思議に思っていますし、今後の検討テーマではないかと考えています。

──ウイルスが感染すると、最初にウイルスを排除する作用を誘導するインターフェロンの産生が起こるはずですが、重症例ではインターフェロン産生が起きていないのではないかと推測されています。感染時のインターフェロン産生の有無は重症化例と重症化しない例を分けると考えてよいでしょうか。

岩崎 現状では、COVID-19患者が症状が出て病院に来る前の段階でのウイルス量とサイトカイン量の関係が全く研究できていません。これまでの報告から、感染してから2~3日目が重症化するかどうかの分岐点となる重要な時期と考えられますが、この時期の患者を対象とした研究ができていません。この時期の検討が進めばもう少し確かなことが言えると思いますが、現状では推測に過ぎないと言わざるを得ないと思います。

数年前の研究ではありますが、我々が高齢者と若年者の血液試料を使って検討したところ、高齢者はインフルエンザをはじめとするRNAウイルスに感染してもインターフェロンの産生量が少ないことが明らかとなりました。新型コロナウイルスも同じように感染から2~3日後の時点でインターフェロン産生が起こらず、ウイルスが増えてしまうことが重症化の第一歩である可能性があると考えています。

──インターフェロンの役割として、RNAを分解する酵素であるRNaseの活性化やナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性化、正常細胞の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)class1を誘導してNK細胞から保護するといったものがあるとされます。これらは感染に対する最初の免疫応答機構だと思いますが、インターフェロンの産生が誘導されないということは、こうした最初のトリガーが引かれないため、免疫応答が動き出さないということなのでしょうか。そうであれば、いわば免疫の暴走であるサイトカインストームが起きるのはなぜでしょうか。

岩崎 その点は非常に興味深いところですが、現状ではまだよく分かっていません。

もしかしたら何らかの抗体が関わっているかもしれないと想像しています。COVID-19患者では、重症例や高齢者ほど抗体が早く、大量に産生されます。この抗体がウイルスに結合して中和することなく、抗体依存性感染増強(ADE)を引き起こすのかもしれません。

COVID-19の重症化例は多くの場合、感染してから2週間後ぐらいから重症化するとされています。これは抗体産生が高まる時期と一致します。いわば「悪い抗体」が産生され、ウイルスと結合しつつ、マクロファージの細胞表面にある抗体の受容体(Fc受容体)と結合してウイルスを細胞内に取り込んでしまう。そしてマクロファージのファゴソーム内のToll様受容体(TLRとも言う。ウイルスRNAや細菌の表面抗原などを認識する受容体)の活性化の結果としてサイトカインストームが引き起こしているのではないか。あくまで現時点では推測でしかありませんが、これまでの様々な論文のデータと整合性がとれているような気がしています。

逆に、感染しても全く症状が出ない人では抗体があまり作られていない。中和抗体がたくさん産生されたから重症化しなかったということを示したデータは、これまで報告がありません。自然免疫の段階でウイルスが排除され、獲得免疫が作用しなくてもウイルスの増殖を抑制しているのかもしれません。現状で、いわゆる「悪い抗体」、ADEを引き起こすような抗体を測定する方法が確立していません。どのタイミングでどんな抗体ができているかを明らかにできていないのです。こうした点はさらに検討を進めていきたいと考えています。

──ウイルスが体内に侵入すると、TLRがウイルスRNAを認識して自然免疫が活性化され、最初の防御機構として働くとされますが、重症化例はTLRがウイルスRNAを認識しないのでしょうか。

岩崎 オランダから報告された論文では、4人の若い男性の重症例を調べたところ、TLR7(Toll様受容体7、ウイルスRNAを認識するとされる)に遺伝子多型があり、TLR7の機能が働かない状態でした。TLR7と同じくウイルスRNAを認識するTLR8とTLR7はX染色体上にあります。COVID-19は男性の方が重症化しやすいとされますが、このTLR7やTLR8の遺伝子多型あるいは発現量の違いが重症化に関わっているかもしれません。

また、新型コロナウイルス、重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARSウイルス)、インフルエンザなどのRNAウイルスにはインターフェロンの産生やそのシグナル伝達を抑制する蛋白質があり、これらが抗ウイルス作用を発揮させないようにしているのではないかとする研究もあります。これに対して、ヒト側も人によってインターフェロンの産生能が異なるでしょうし、ウイルス側とヒト側の様々な要因が関係していると考えられますが、さらに検討していかなければならないと思います。

引用元 : 日経メディカル 重症化例でなぜサイトカインが暴走する?
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