COVID-19死亡率はACE1の遺伝子型と強く相関
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COVID-19死亡率はACE1の遺伝子型と強く相関

SARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの大きな特徴の一つは、特定の地域や民族に顕著な影響を与えていることである。特にヨーロッパでは、最初にウイルスが出現した東アジアと比較して、SARS-CoV-2が高い罹患率と死亡率をもたらした。これは,過去のインフルエンザ、SARS、MERSなどの世界的なウイルス感染症では経験されておらず、SARS-CoV-2に特有のものである。

アンジオテンシン変換酵素(ACE)がSARS-CoV-2の受容体であることから、ACE2関連遺伝子に着目し、SARS-CoV-2感染に関連する遺伝的因子の関与を検討した結果が、Gene誌7月3日号に報告された(Yamamoto N et al. SARS-CoV-2 infections and COVID-19 mortalities strongly correlate with ACE1 I/D genotype. Gene 2020; 758:144944.)1)。その結果、ある集団におけるACE1 II(insertion/insertion)遺伝子型頻度は、SARS-CoV-2感染者数と有意に負の相関があることが明らかになった(Iはinsertion。IIはinsertionをホモで保有するという意味。後出のDはdeletion)。同様に、ACE1 II遺伝子型は SARS-CoV-2 感染による死亡者数と負の相関が見られた。これらのデータは、ACE1 II遺伝子型がCOVID-19の有病率や臨床転帰に影響を与え、COVID-19のリスクや重症度を予測するマーカーとして機能する可能性を示唆している。

具体的には、ヨーロッパとアジアにおけるACE1遺伝子に存在するinsertionもしくはdeletionの遺伝子多型(I / D[insertion/deletion]遺伝子型)とSARS-CoV-2罹患率および死亡率の相関を調査した。その結果、SARS-CoV-2に感染した患者の数とCOVID-19による死亡者の数の両方がACE1 II遺伝子型頻度と負の相関があり、それは統計学的に有意だった(それぞれ、 R =-0.847、-0.755)。ヨーロッパの集団はアジアの集団よりもACE1 II遺伝子型頻度が低く、一方、高い有病率とCOVID-19による死亡率を有していた。

ACE2、CTSL (cathepsin L)、TMPRSS 2 (transmembrane serine protease 2)などの、SARS-CoV-2の病原性に関与する一塩基多型(SNP[single nucleotide polymorphism])も検討したが、 COVID-19の有病率または死亡率との有意な相関は観察されなかった。

今回の結果はACE1 I/D 多型が SARS-CoV-2 の感染性と病原性の遺伝的マーカーの一つである可能性を示唆する。ACE1におけるII遺伝子型の頻度の増加は、SARS-CoV-2感染症への感受性およびその結果としての死亡率と逆相関していたことは注目に値する。死亡率は単に感染・罹患数に比例するのではなく、感染・罹患状態とは独立して、または付加的に影響を受けているように思われた。

生理状態では、ACE1によって生成されたアンジオテンシンIIからのシグナルは、血管収縮、炎症、線維化などの病理状態に関連しており、ACE2由来のペプチドであるアンジオテンシン1-7は、Mas受容体を介してアンジオテンシンIIの作用を逆転させる。したがって、体内の恒常性維持にはACE1とACE2のバランスが非常に重要であると考えられている。

DD遺伝子型を有する人では、ID遺伝子型またはII遺伝子型のいずれかを有する人と比較して、ACE1の血清中濃度が有意に高いことが報告されている。さらに、ACE2はSARS-CoV-2の受容体であるため、ウイルス感染はACE2の機能の抑制につながり、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の過剰活性化および肺機能停止に関与するACE1/ACE2の不均衡を引き起こす可能性がある。これは、ACE1によって産生されるアンジオテンシンIIの病態生理学的効果を打ち消すACE2の効果をさらに低下させ、病態を悪化させる可能性がある。

D対立遺伝子を有する患者、特にDD遺伝子型を有する患者では、急性呼吸促拍症候群(ARDS)および特定の心臓、肺および炎症性疾患による罹患率および死亡率のリスクが高くなることが報告されている。ACE1/ACE2の不均衡、つまりACE1のD対立遺伝子、特にDD遺伝子型を有するCOVID-19患者は、ACE1 DD遺伝子型を有するSARS患者に見られるように、より高い重症度になる傾向があることが予測される。

また、ACE1 I/D多型は咳嗽反射にも関連する。加齢に伴う咳の減少による誤嚥が高齢者の肺炎の主な原因である。過去に、ACE1 D対立遺伝子が日本人高齢者の肺炎リスクに寄与していることが報告されている。ACE1 DD遺伝子型におけるACE1の高発現がサブスタンスPを減少させ、咳反射の低下により肺炎リスクを高めるモデルも提案されている。中国からは、日本とオランダの研究を含む肺炎とACE1に関する12の研究のメタ解析を行い、ACE1 I/D多型と肺炎リスクは有意に関連するという報告もある。

今回の解析ではACE1遺伝子のD対立遺伝子の保有率がSARS-CoV-2感染への感受性や肺炎などのCOVID-19症状の増悪に関与している可能性があることを初めて示したものとなる。また、中東では感染者数が多く死亡者数が少ないという特異な状況がある。それが今後も続くのであれば、中東におけるSARS-CoV-2と遺伝的要因との関係は今後の調査の重要な焦点になる。米国をはじめとする各国のデータの蓄積によりSARS-CoV-2感染症やCOVID-19関連の罹患率・死亡率におけるACE1 I/D多型の役割がより正確に理解されることが期待される。

Dr. Hirayama’s Eye──ACE1とACE2の役割と遺伝子多型の影響とは?

ヒトアンジオテンシン変換酵素1(ACE1)遺伝子は 第17 番染色体長腕(17 q 23)に位置し、 26の エクソン(DNA から蛋白に翻訳される部分)と 25 の イントロン(翻訳されない部分)を含む。ACE1遺伝子イントロン16の287塩基対のAluリピート配列の有無により、それぞれ、insertionアレル(I:挿入)とこれを欠く deletionアレル(D:欠失)が存在し、II型、ID型、DD型の 3つの遺伝子型に分類される2-4)。

ACE1はメタロプロテアーゼとして、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)において重要な調節機能を果たしており、アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換する。アンジオテンシンIIは、アンジオテンII受容体タイプ1(ATR-1)を介して活性化シグナルを伝達する。この活性化の結果、血管収縮、気管支収縮、炎症、線維化、酸化作用が促進される。対照的に、ACE2はアンジオテンシンIをアンジオテンシン1-9に、アンジオテンシンIIをアンジオテンシン1-7に分解し、血管拡張、抗炎症、抗増殖、抗線維化、抗酸化作用を有する。

ACE1遺伝子はACE1活性を規定し、その活性は、II<ID<DDであり、Dアレルが関与する。ACE1は不活性アンジオテンシンIを炎症誘発性アンジオテンシンIIに変換するため、ACE1レベルが高い患者はCOVID-19感染に続発する重度の炎症を来すリスクが高くなると考えられる。

また、SARS-CoV-2のスパイク蛋白質の受容体として機能するACE2には、細胞外ドメインと、循環するACE2を表す可溶型の構造膜貫通蛋白質がある5)。マウスの研究では、ACEI(ACE阻害薬) / ARB(ATR-1 blocker)で治療された患者ではACE2の発現が大幅に増加することが示されている。別の研究では、ACEIにより治療中の糖尿病患者で循環中のACE2レベルが増加した。Liuらによる研究6)では、COVID-19肺炎患者の血清アンジオテンシンIIレベルは健康な個人と比較して有意に高く、ウイルス量と肺損傷と直線的に関連していたことが示された。これに基づいて、ACE2へのSARS-CoV-2結合が残留ACE2活性を減衰させ、ACE1/ ACE2バランスをアンジオテンシンII活性が高まった状態に歪め、肺血管収縮、炎症および酸化的臓器損傷を引き起こし、急性肺損傷(ALI)のリスクを高めると考察されている。

ACEI / ARBがALIまたは急性呼吸促迫症候群(ARDS)の患者に有益である可能性も示されている5、6)。ACE2のアップレギュレーションを通じて、ACEI / ARBは抗炎症作用と抗酸化作用を発揮でき、ALIとARDSの防止に有益な場合がある。SARS-CoV-2感染の病態生理学およびACEI / ARBの多面的効果に基づいて、これらの薬剤は重度のCOVID-19を有する患者の管理において重要な役割を果たす可能性がある6、7)。

最後に、ACE1 I/D遺伝子多型がCOVID-19の予後規定因子ならば、ACE1 DD型、ID型、II型で臨床症状に差があるかどうかの検討が望まれる。ACE1 I/D遺伝子多型の頻度の違いがアジアでCOVID-19の罹患率・死亡率が低い、ファクターXの一つであるかもしれない8)。

引用元 : 日経メディカル COVID-19死亡率はACE1の遺伝子型と強く相関
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