アビガンの上市を遅らせたのは誰だ
「通常承認」に拘泥した不条理
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アビガンの上市を遅らせたのは誰だ
「通常承認」に拘泥した不条理

非常に説得力ある結果―関係者に敬意と感謝

昨日(9月23日)、本サイトで紹介されたように(関連記事「アビガン、国内Ⅲ相試験で有意差示す」)、富士フイルム富山化学は、非重篤な肺炎を有する156例の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を対象とした国内臨床第Ⅲ相試験(P3治験)において、ファビピラビル(商品名:アビガン)が主要評価項目を達成したことを発表した。

その内容については、

①主要評価項目が「症状(体温、酸素飽和度、胸部画像)の軽快かつウイルスの陰性化までの時間」という臨床現場のニーズに即したワールドスタンダードである

②ファビピラビル群の早期の症状改善が統計学的有意差(P=0.0136)をもって明確に示された

③新たな有害事象は見られなかった

など、非常に説得力のある結果だと思う。

当初、私が懸念していた突貫工事という危惧は払拭されたといえる。何よりも、現在の「人道的供給」の中止が回避できたことは喜ばしい。周囲の雑多な思惑に振り回されながらも、あくまで医療人としての矜持を持って真摯に治験に取り組んできた、富士フイルム富山化学をはじめとする関係者の方々には、心から敬意と感謝を表したい。

5月中に承認のはずが...

ファビピラビルは、安倍晋三前総理大臣が記者会見で「5月中に承認」と国民に約束したにもかかわらず、迷走を繰り返してきた。私は4月の段階で、ファビピラビルについて、国際的批判を浴びている「期限付き早期承認制度」を用いてでも早急に承認すべきと主張した(関連記事「アビガンを連休明けに使用できる!」)。

ファビピラビルの承認は、再生医療等製品(ハートシートやステミラック)で見られた医学的根拠の希薄な早期承認の乱発とは異なることも主張してきた。しかしながら、ファビピラビルが「早期承認」されることはなかった。これを阻止する、あくまで「通常承認」に拘泥する力が働いたようである。

ファビピラビルの臨床試験は、今回結果が発表されたP3治験に加えて、下記の2つの臨床試験が同時進行していた。

①藤田医科大学が主導する全国多施設観察試験(全国の研究参加施設への人道的供給による)

②藤田医科大学での日本医療研究開発機構(AMED)の特定臨床研究(ウイルス消失率を主要評価項目とした試験)

国民に配信されたネガティブメッセージ

最初の迷走は、5月18日である。②の中間解析(たった40例)の結果が外部にリークされて、共同通信から「アビガン、有効性示せず」というタイトルでリリースされたのだ。中間解析とは、内部で「安全性」を確認して治験の継続の可否を判断するもので、「有効性」を判定するものではない。そもそも外部へのリーク自体がルール違反であり、さらにそれが不正確なメッセージとして国民に配信されたのである。情報源は厚生労働省内部であろうが、厚労省は族議員への報告資料が誤って漏れてしまったと言い訳していたらしい。そしてなぜか同じ日に日本医師会(日医)の有識者会議も、これに迎合した平時のお題目の提言を出した。

さらに、藤田医科大学が5月21日に日本感染症学会の公式サイトで、①の約2,000例の観察研究の結果を報告するという情報が流れた。医療現場での素養を積んだ医師から見れば、対照がない「観察研究」でも、十分に「期限付き早期承認」に値する結果であった。

厚労省審査管理課・医薬品医療機器総合機構(PMDA)も、このデータを申請資料とした「期限付き早期承認」(国外からの酷評を避けるために名前だけは変えていたようだが)に合意していたらしいが、前日になってこの報告は中止された。「通常承認」にこだわる力に押し切られたのだろう。結局、この報告は関係者間での十分な申し合わせの下で、5日後の5月26日にメディア発信されたが、「非投与例の直接比較をしておらず、慎重に結果を解釈することが必要」という陳腐でネガティブなメッセージとなっている(関連記事「アビガン中間報告、有効性は慎重に解釈必要」)。

効果がない薬なのに人道的供給を継続?

そして7月10日には、②の89例の解析結果が藤田医科大学から記者発表された(関連記事「アビガン国内RCTの最終結果発表」)。

「ウイルスの累積消失率は、ファビピラビル投与群で高い傾向を示したが、有意差には達しなかった。この結果からは、有効とも有効でないとも結論できない」というメッセージである。特記すべきは、この時点で国内P3治験は進行中であったにもかかわらず、この記者発表は「国内RCTの最終結果」で「有意差なし」という内容で、共同通信をはじめとする一般メディアから大々的に報道されたことである。「最終結果で有意差なし」だとすると、厚労省の観察研究施設への「人道的供給」もストップすべきである。効果がないと最終判定された薬を供給することが「人道的」なはずがない。

しかしながら、ファビピラビルの「人道的」供給は維持したまま、国民に対してのネガティブな印象操作は続いた。結局は政府、厚労省、「専門家」にはなんの責任もなく、「富山化学が十分なデータを提供できずに安倍総理のメンツを潰した」という落としどころとなってしまった。つまり、発端となった共同通信を通しての情報操作を行ったルール違反者の思惑通りに「時間稼ぎ」がなされたのだ。総理の国民への約束を反故にしてまで、日医を巻き込んでまで、「通常承認」にこだわったこの不条理な力はなんなのだろうか。

メデタシ、メデタシではすまない

いずれにせよ、今回の「通常承認での良好な結果」で、各方面のメンツが立って結果オーライということか。厚労省も、「期限付き早期承認」を回避して国際的酷評の憂き目に合わなくても済むのでメデタシ、メデタシということか。これで、ファビピラビルの10月中の承認は確実だろう。

しかしながら、5月に「早期承認」をしておけば、第二波における混乱、社会のコロナ差別、莫大な経済損失は、少なくとも一部は防げたのではないか。過去のゲフィチニブ(商品名イレッサ)、サリドマイド、非加熱製剤などの有害事象と、ファビピラビルの有害事象を重ね合わせてきた厚労省には、医学・医療の素養があるのか。第一波の最中という非常時に、平時のお題目を主張して憚らない専門家・有識者には、医療現場での研鑽によって培われた「医者としての勘・センス」はないのか。Withコロナの時代になっても、今の日本の医療行政のままでは、同じことが繰り返されるだろう。

せめて、ファビピラビルの申請・承認を機会に、視界不良のワクチンや特効薬を待つことなく、COVID-19を「指定感染症(2類相当といいながら実は1類相当)」の呪縛から解放していただきたい。

引用元 : Medical Tribune アビガンの上市を遅らせたのは誰だ
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