ハワイで始まった2回目のロックダウン
まだまだコロナの感染拡大続く米国の島
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ハワイで始まった2回目のロックダウン
まだまだコロナの感染拡大続く米国の島

世界で最も多い新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を出した米国だが、8月に入って感染者数は減少してきた。だが、その中でハワイ州だけは現在、まさに感染拡大の真っただ中にある。

客足が消えたアラモアナセンター、寂寥感漂う日本語案内デスク、鳩だけが待つピンクラインのバス停。8月27日から、ホノルルが位置するハワイ州オアフ島で今年2度目のStay at Home/Work from Home Order(事実上のロックダウン)が施行された。これにより食料品や医療機関など生活に必要不可欠な施設以外の営業が禁止され、ビーチや公園も閉鎖された。

2019年末に端を発したCOVID-19は瞬く間に中国内や周辺各国を席巻し、当初これを他人事のように扱っていた米国は3月から「不意打ち」を受け、その後米国内で大流行するという痛手を負った。ニューヨークなどのepicenterでは医療崩壊が起こり、医療資源の分配から通常なら救える患者の選別(triage)を迫られ、また医療従事者の個人保護具(PPE)が不足しゴミ袋をかぶって防護服としたり、N95マスクを再使用したりするなど、前代未聞の事態があったことはいまだ記憶に新しい。

そんな中、米国本土と一線を画したかのように、ハワイは離島である特徴を生かして、ハワイ州以外からの旅客はすべて14日間の自宅もしくはホテルでの隔離義務を課すなどの水際対策を徹底したことが功を奏し、4月、5月はほとんど感染者が確認されず、防疫において優秀な成績を収めたといえる。しかし、7月からちらほらと新規感染者が増え始めた。様々な推測があるが、米国本土からの観光客の増加、14日間の隔離の不徹底や監視の甘さ、新規感染者の追跡不足、マススクリーニング前の未熟なタイミングでのレストラン/バー/公共施設の再開、あるいは単純に住民の警戒心の低下がその理由と考えられている。 7月29日からは毎日200人から300人と三桁の新規患者数が続き、医療現場を圧迫し始めている。ハワイの人口は約140万人、ちょうど東京の10分の1である。単純計算では、今の東京で毎日2000人から3000人の新規患者数が出ることに相当する深刻さである。

ハワイにおけるコロナの第1波が子供用プールのような柔らかな波と例えるなら、8月に襲いかかってきた第2波は予想をはるかに超える津波のようなものだった。それまで全米で防疫の模範的存在だったハワイ州は、瞬く間に「COVID-19患者数成長率No.1」の称号までも獲得した。

私が所属するハワイ州最大の医療機関The Queen‘s Medical Centerの本院では、3月から新型コロナウイルス感染症のための専門病棟を設置した。当初、COVID-19専門病棟は10~20数床で十分だったが、7月以降病床の需要が大幅に増え、1カ月で100床程度までに膨れ上がった(実際の収容可能な患者数はその日に出勤できる看護師の数によっても変動する)。隔離病棟の空きベッドを確保するため、関連病院へ非COVID-19の一般患者を他院に転院させることもあった。また、 超重症の患者はICUで可能な限り受け入れられた。

新型コロナ病棟専属の医師として直接な患者ケアに携わるのは、私を含む病棟専門の総合内科医(ホスピタリスト)である。現在も対症療法がメーンとなるCOVID-19治療であるが、当院では主に、(1)レムデシビル、(2)デキサメタゾン、(3)回復期血漿療法(サイトカインストームが疑われた患者にはトシリズマブの投与も可能であるが、こちらはICU患者が優先である。トシリズマブはロシュの治験では有意差が認められなかったが、われわれで独自のランダム化比較試験を実行中)――の3種類が行われている。大まかには、感染の初期は回復期血漿でウイルスの増殖自体を抑えて感染を防ぎ、発症からある期間が過ぎて肺の炎症が進行し、低酸素血症が進行する時にデキサメタゾンを投与する。これらについてはホスピタリストが主導して投与できる。一方、レムテシヒルは比較的軽症例、あるいは人工呼吸器を必要とする超重症COVID-19においては効果か乏しい。ある程度の重症COVID-19でより効果か確認されていることから、実際の見極めか簡単ではないことも多く、感染症内科医にのみ処方の権限か与えられている。

また、初診の段階で、高齢、心血管系の持病、酸素化障害の急速な悪化など重症化しうると判断した患者はあらかじめ感染症内科や集中治療科と連携を取り、呼吸や循環動態が不安定になった際にはICUへ速やかに移せるようにする。ただし、超高齢の患者や末期腎不全、免疫不全状態、担癌の患者など、予後が特に不良であると予測される場合は家族会議を開き緩和ケアに切り替えることも多い。院内でのCOVID-19の感染拡大リスクを最小限に抑えるため、新型コロナ病棟専属医は原則、 COVID-19以外の一般患者の診察は担当しない。また、ホスピタリストは12時間のシフト制が敷かれており、1日で最大に担当できる患者数は12人程度と定められている。夜間は夜勤の同僚が病棟業務を担い、過労による医療過誤やバーンアウト防止への対策も講じられている。

その他、われわれは米国内の大きな施設の一つであることから数々の臨床試験に参加しており、ちょうどこれからSpO2が93%以下、あるいはPaO2/FiO2が300mmHg以下の重症患者を対象とした免疫グロブリン療法のランダム化比較試験が組まれようとしているところである。

患者の容体が改善し、酸素投与が必要なくなり、かつ解熱後24時間以上経過し安定すると退院が可能となる。しかし臨床上改善が見られても引き続きウイルスの排出があり得るため、ハワイ州保健局のガイドラインでは、肺炎の症状に加えて呼吸窮迫または室内気でSpO2が90%を切る低酸素血症を認める重症患者においては、発症から20日間の隔離が必要とある。自宅に患者が滞在できる個室がある場合、自宅を優先に退院調整をするが、そのような環境が確保できない場合、ハワイ州保健局などと連携し、市内のホテルなどで引き続き隔離される。

社会的弱者に多い印象が強い重症者

COVID-19流行下においては、入院患者の面会は家族も含めて一切禁止されている。COVID-19で危篤となる患者の多くが独りで亡くなることになるため、最後の時間を家族と過ごしていただくため、病院が病室で使用できるタブレットを用意して、患者と家族とのビデオチャットを可能にした。このように、COVID病棟は一般病棟と色々な面において対応法が異なる。

入院を必要とするのはCOVID-19にかかった患者の中でも肺炎が認められ、かつ低酸素血症などを呈した重症例である。私の感覚では入院患者の半数は経済社会的に弱者である太平洋の島々からの移民(Pacific Islanders:ミクロネシアやポリネシアの総称)である。この集団は、肥満や糖尿病、高血圧などの持病を持つ割合が高く、COVID-19においても重症化しやすい。また、狭い自宅内に大家族で暮らすことも多く、一人が感染すると直ちに家族全員が曝露されてしまう。それに、無保険または十分な医療保険を持っていないか、そもそも医療自体を信頼していない方もおり、症状の悪化を待ってからの救急受診がほとんどである。

さらに、彼らは英語が話せないことがあり、PPEで隔てた状態下での問診を難しくしている。実際、ハワイの地元紙によると、8月以降コロナの急速な再流行における患者の人種別割合は、総人口の比率に反してPacific Islandersとフィリピン系が多く、日系や中国系が比較的少ない。(https://www.staradvertiser.com/2020/08/06/hawaii-news/surge-in-virus-cases-highlights-disparities-for-pacific-islanders/)。

当院は私立病院であるが、かつてのハワイ王族が設立したことから「公立色」が強い。保険の有無で患者を差別することは一切なく、無保険の場合もソーシャルワーカーが公的福祉の申請を手伝ってくれるか、もしくは医療費が回収できないことも少なくない。もっとも、米国の病院では基本すべて医療費の精算は退院後になされ、だいたい忘れた頃に自己負担分の請求書が自宅に届く仕組みになっているのだが。

院内の休息で職員が感染するケースも

COVID-19患者の急増に伴い医療現場へのプレッシャーを全面に受けるなか、先日、事態をさらに悪化させる出来事が起きた。8月中旬、新型コロナ病棟で、看護師を中心としたスタッフの集団感染が起きたのだ。

ご存じの方も多いかもしれないが、欧米の病院では手技中や特定の飛沫感染症などの場合を除き、原則マスクをしない。顔や表情が見られないとコミュニケーションが取りにくいと考える文化があるからかもしれない。もちろん今回のCOVID-19の流行下では院内全員のマスク着用が義務付けられ、直接患者のケアに携わる際にはマスクのみならずフェースシールドもしなくてはならない。今回の職員の集団感染は、どうやら休憩室で同じ時間帯にPPEなしで飲食したことが原因だと分析されている。自宅に戻った職員がまだその家族を感染させ、中には重症で入院を要するケースもあるという。これを受けて、同じ病棟で働いたスタッフは新型コロナウイルスに曝露されたとみなし、PCR検査によるスクリーニングを受けた。また、職場から自宅にウイルスの持ち込みが心配な場合、病院が費用負担する形でホテルを確保されている。

これまでも米国の医療現場で使われるPPEの粗末さは言われてきたが、さらに問題なのは院内にそれらの「粗末なPPE」でさえ備蓄されている量が少ないことである。8月下旬、当院では、患者の増加に伴ってPPEの消費量も上がり、N95マスク(正式名称はN95レスピレータ)が特定のサイズと種類で不足する事態となった。その対策として、これまで廃棄せずためておいた使用済みのN95マスクを滅菌処理し再利用する選択肢と、他のメーカーの高性能マスク(新品)に乗り換える選択肢が提示された。日本では一般的ではないかもしれないが、新しいタイプのマスクに変更するためには、まずfitting testを受け、そのマスクが自分に適合性があるかどうか、つまり密閉したものであるかどうかを試さなければならない。

このようにハワイでは現在、COVID-19の第2波により、医療機関がかなりひっ迫した状態にある。8月22日、私が勤務していた病棟にホノルル市長が視察に訪れ、現場のスタッフを慰問すると同時に、有効な施策に関する提案がないかを聞かれた。私たちは、ハワイにおいてCOVID-19の市中感染が起き、かつその段階で患者数が増え続けていることを踏まえ、3月当初に施行されていたロックダウンの再施行を提案した。それが直接な引き金であったかどうかは不明だが、8月27日から本当にロックダウンが実行された。8月30日の新規感染者数は200人、まだロックダウンの効果が見えてくるには早すぎる。終わりの兆しがまだ見えなくても、「常夏の楽園」をCOVID-19から救おうと、現場の人々は今日も懸命に奮闘を続けている。

ハワイは日本との交流が最も盛んな地域の一つであるだけに、現在まん延しているCOVID-19の影響で人的往来がほぼ皆無となり、街に日本人を見かけなくなった。日本はCOVID-19の第2波が過ぎ去ろうとしているようだが、気が緩んでしまう動きも出てきかねない。COVID-19感染者の80%程度は軽症または中等症で対症療法のみで改善するのは確かだ。しかし、変な例えだが、一度COVID-19に感染することは、約2割の確率で「凶」が出る(=重症化)くじ引きに強制参加させられるもので、さらに凶の半分は「大凶」である(入院患者の死亡率は約10%)。私たち1人ひとりにとっても、社会全体にとっても、しっかりとした予防策を取ってCOVID-19を根絶できる日がくることが願うばかりである。

引用元 : 日経メディカル まだまだコロナの感染拡大続く米国の島
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