初の新型コロナ薬物療法ガイドラインが公開
日本救急医学会・日本集中治療医学会
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初の新型コロナ薬物療法ガイドラインが公開
日本救急医学会・日本集中治療医学会

日本救急医学会と日本集中治療医学会合同の日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2020※特別委員会は昨日(9月9日)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の薬物療法に特化したガイドラインを両学会の公式サイトで公表した。十分に解明されていないCOVID-19に対し、臨床医が意思決定に必要な確実性の高いエビデンスを割り出す時間は限られている。今回、厚生労働省が推奨薬に追加したファビピラビルを含む5剤について、クリニカルクエスチョン(CQ)と推奨文などが初めて示された。

推奨の適用は軽症~重症の全患者

今回公表された『COVID-19薬物療法に関するRapid/Living recommendations(J-SSCG2020特別編)』(以下、特別編)は、J-SSCG2020を補完するもので、COVID-19診療現場での適切な意思決定を支援する目的でつくられた。

特別編の対象は成人のCOVID-19患者で、自宅、ホテルなどの医療機関外で療養加療中の軽症患者、酸素投与または入院加療を要する中等症患者、集中治療管理を要する重症患者を包括している。

今年(2020年)7月31日時点のエビデンスに基づいて、薬物療法の確実性や推奨の強さを決定するGRADEシステムが用いられた。特別編のCQは次の通り。

CQ1. COVID-19患者にファビピラビルを投与するか?

CQ2. COVID-19患者にレムデシビルを投与するか?

CQ3. COVID-19患者にヒドロキシクロロキンを投与するか?

CQ4. COVID-19患者にステロイドを投与するか?

CQ5. COVID-19患者にトシリズマブを投与するか?

ファビピラビル:軽症には投与を「弱く推奨」、中等~重症には推奨提示せず

CQ1のファビピラビル(商品名アビガン、適応症:新型または再興型インフルエンザウイルス感染症)について、軽症患者への投与は「弱く推奨する(弱い推奨/低の確実性のエビデンス:GRADE 2C)」とされた。また中等症患者および重症患者への投与は「現時点では推奨を提示しない(no recommendation)」とされた。

同薬は、生体内で変換された三リン酸化体がRNAポリメラーゼを選択的に阻害しRNAウイルスに作用する。COVID-19流行初期からcompassionate use(人道的使用)として提供され、ランダム化比較試験(RCT)が行われてきた。COVID-19への有効性が期待されているものの、一貫した成績は得られていない。

レムデシビル:軽症には推奨提示せず、中等~重症には投与を「弱く推奨」

Q2のレムデシビル(商品名ベクルリー)は、厚労省がCOVID-19治療の推奨薬として世界に先駆けて特例承認したもの。(関連記事「レムデシビルが新型コロナ治療薬に初承認」)

中等症患者および重症患者における同薬のランダム化比較試験(RCT)2報によると、14 日全死亡は1,000人当たり30人の減少とわずかな効果を示したが、28 日全死亡は12人増加し絶対効果に一貫性がなかった。しかし、有害事象発現を増大させることなく臨床症状の改善が見込まれた。

軽症患者については、レムデシビルの利益と害のバランスの判断が不能だった。

今回、軽症患者への同薬投与は「現時点では推奨を提示しない(no recommendation)」とし、中等症患者および重症患者には「弱く推奨する(弱い推奨/低の確実性のエビデンス:GRADE 2C)」とした。

ヒドロキシクロロキン:「投与しないことを強く推奨」

CQ3のヒドロキシクロロキン〔商品名プラケニル、適応症:皮膚エリテマトーデス(SLE)、全身性SLE〕は、COVID-19の重症度に関わらず全ての患者に「投与しないことを強く推奨する(強い推奨/中の確実性のエビデンス:GRADE 1B)」とされた。

ヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬および自己免疫疾患の治療薬として用いられている。近年、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)を引き起こすコロナウイルスにも同薬の抗ウイルス作用を発揮することが分かった。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ではin vitro活性が示され、COVID-19患者に対するヒドロキシクロロキンの効果が期待できるとして、主に米国で使用されるようになった。しかし有効性は定まっていない。

デキサメタゾン:軽症患者には「投与しないことを強く推奨」、中等~重症には「投与を強く推奨」

CQ4のステロイドについては、7月に厚労省がデキサメタゾン(商品名デカドロン)をCOVID-19治療の推奨薬に追加している(関連記事「コロナ治療にデキサメタゾンを追加、厚労省」)。

特別編では、軽症患者への同薬は「投与しないことを強く推奨する(強い推奨/中の確実性のエビデンス:GRADE 1B)」とし、中等症患者および重症患者では「投与することを強く推奨する(強い推奨/高の確実性のエビデンス:GRADE 1A)」とされ。ただし、現時点では COVID-19患者に最適なステロイドの種類、投与量に関して薬剤同士を直接比較した研究は存在しない点には注意が必要だ。

COVID-19重症化の機序として、宿主に過剰な免疫応答が生じることで臓器障害を来すと考えられている。ステロイドには免疫応答を緩和する作用が期待されている。

トシリズマブ:推奨を提示せず

CQ5のトシリズマブ(商品名アクテムラ、適応症:関節リウマチ、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎、全身性若年性特発性関節炎、成人スチル病、キャッスルマン病に伴う諸症状および検査所見の改善、主要特異的T細胞輸注療法に伴うサイトカイン放出症候群)は、インターロイキン(IL)-6を抑制する薬剤。

COVID-19患者に対するトシリズマブの投与について、特別編では「現時点では推奨を提示しない(no recommendation)」とされた。

重症 COVID-19患者においてはIL-6を含む炎症性サイトカインの産生が亢進し、病態が進展することが報告されている。COVID-19治療薬候補としてトシリズマブの臨床研究が多数行われているものの、有効性は定まっていない。

流行期が収束するまで随時更新

全てのCQは、①薬物投与の背景②推奨の理論的根拠(利益と害のバランス、エビデンスの確実性、価値観と意向、コスト・資源利用、許容および実行の可能性)③パネルの合意の程度④進行中のエビデンス⑤参考文献―が記載されている。

一部のCOVID-19患者に見られる重症化は、肺炎を契機とした重症呼吸不全が主である。しかし血液凝固障害や多臓器不全の合併例も存在するなど、重症化メカニズムの解明は十分とはいえない。

また薬物療法についてJ-SSCG2020特別委員会は、玉石混淆のエビデンスが存在すると指摘。特別編はGRADEシステムの迅速作成かつ随時更新するRapid/living recommendationを前提としており、COVID-19流行が収束するまで最新の知見に基づき更新していくという。

引用元 : 日経メディカル 初の新型コロナ薬物療法ガイドラインが公開
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