コロナウイルスの抗体は交差反応するか?
従来のコロナウイルス感染者とCOVID-19患者の抗体を調べる
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コロナウイルスの抗体は交差反応するか?
従来のコロナウイルス感染者とCOVID-19患者の抗体を調べる

英国Francis Crick InstituteのKevin W. Ng氏らは、COVID-19確定例の血清とSARS-CoV-2非感染者の血清を用いて、高感度フローサイトメトリーを利用した抗体検査を行い、非感染者の一部が、SARS-CoV-2のスパイク蛋白質(S)に反応する抗体を保有すること、それらはSARS-CoV-2中和活性を持つことを示唆する結果を得て、bioRxivに2020年7月23日に報告した。

MERS-CoV、SARS-CoV、SARS-CoV-2以外に、4種類のコロナウイルスが知られているが、それらはいずれも軽い呼吸器症状を引き起こすに留まる。また、従来のコロナウイルス(HCoVs)のいずれかに感染すると、交差反応性を示す抗体が誘導されて、別のコロナウイルスに感染しにくくなる、と考えられてきた。そうした抗体がSARS-CoV-2にも交差反応するかどうかを明らかにするために、著者らは特殊なフローサイトメトリーの蛍光活性化セルソーティング(FACS)法を用いて調べることにした。

対象は、英国のUniversity College London Hospitals(UCLH)を2020年3月から4月に受診し、RT-PCR検査によりCOVID-19が確定した患者のうち、発症後2日目から43日目までに採取されていた血清または血漿サンプルがある場合。また、英国内の施設で、COVID-19流行以前に、SARS-CoV-2感染歴のない成人計262人と小児と思春期の48人から採取されていた血液標本も得た。

著者らは、抗体の検出法として一般に用いられるELISAよりも感度の高い方法として、フローサイトメトリーを利用した。ヒト胎児腎細胞293T(HEK293T)に、SARS-CoV-2と季節性のヒトコロナウイルス(HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1)のスパイク蛋白質を発現させておいて、それぞれと血清標本を混合し、標本中の抗体と、発現させた抗原の結合を促した。続いて、抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgM抗体、抗ヒトIgA抗体を作用させて、FACS解析を行った。

まず、PCRにより感染が確定していたCOVID-19患者170人から得た血清をFACS解析した。発症から16日目以降にCOVID-19患者から採取された標本では、1人を除く全員に、SARS-CoV-2Sに対するIgG、IgA、IgMの3種類の抗体が認められた。FACS解析の感度は99.8%、特異度は100%になった。例外の1人は骨髄移植を受けていた60歳の患者で免疫抑制状態にあった。3週間後の再検査ではSARS-CoV-2SのIgG抗体が検出されたが、IgAとIgMは見つからなかった。

次に、FACS解析で見つかったIgG抗体が、HCoVsによる可能性を調べるために、SARS-CoV-2非感染者262人の抗体を検査した。非感染者の一部は、感染者に比べれば少ないながらも、S蛋白質に反応するIgG抗体を保有していた。しかし、IgA、IgMは検出されなかったことから、交差反応性のメモリーB細胞の存在が示唆された。

S蛋白質を構成する2つのサブユニットのうち、S1よりS2の相同性が高いため、S2の方が交差反応する抗体の標的になりやすいと考えられた。実際にS1サブユニットのみを発現させたHEK293T細胞を用いてFACS解析を行ったところ、非感染者の抗体はこれに反応しなかった。一方で、S蛋白質を発現させた細胞には反応を示した。またHCoVs感染歴がPCR検査により確認されていた、SARS-CoV-2非感染者の一部に、SARS-CoV-2のS2とヌクレオプロテインに対する抗体が見られた。

HCoVsとSARS-CoV-2に対する抗体の交差反応性については、これまでにも報告があったが、そうした抗体の存在が、SARS-CoV-2の感染またはCOVID-19の経過に及ぼす影響は明らかではなかった。抗体が受容体結合ドメインと交差反応しなければ、ウイルスの侵入は阻止できないだろう。SARS-CoV-2については、S1サブユニットに存在する受容体結合ドメインが、ホスト細胞のACE2と相互作用し、細胞に侵入することが知られているが、今回調べた非感染者には、抗S1抗体は見られなかった。

著者らは、ACE2以外にも、CD147やneuropilin 1が、SARS-CoV-2の受容体として機能できること、さらに、他のコロナウイルスにおいて報告されているような受容体非依存的な侵入も起こりうると考えられていることに注目し、CD147やneuropilin 1を高発現しているHEK293T細胞を用いて、非感染者の血清の中和活性を検討した。

その結果、SARS-CoV-2のSを認識する抗体を保有する非感染者の血清は、COVID-19患者由来の血清と同程度の中和活性を示す一方で、Sを認識する抗体を持たない非感染者の血清には中和活性は見られなかった。

ところで、ほとんどの成人が小児期にHCoVs感染歴を持つと考えられるため、ほぼ全ての成人にSを認識する抗体が存在していてもおかしくはない。しかし、SARS-CoV-2のS蛋白質に交差反応する抗体は、成人の一部、今回調べた262人においては15人(5.72%)にしか認められなかった。

そこで、視点を小児に移し、1歳から16歳までの健康な非感染者の血清を得て調べたところ、48人中21人からSARS-CoV-2 S反応性のIgG抗体が見つかった。交差反応性を示す抗体の保有率は6~16歳が最も高く62%になった。思春期の非感染者2人の血清の中和反応を調べたところ、いずれにも中和活性が認められた。

これらのデータから、HCoVsに曝露すると誘導される抗体の中に、コロナウイルス間で保存されているS2のようなドメインを認識する抗体が含まれており、それらがSARS-CoV-2と交差反応することを示唆した。SARS-CoV-2に曝露すれば、S1を代表とするこのウイルスに特徴的なドメインに対する抗体の産生が新たに誘導される。しかし、SARS-CoV-2特異的な抗体は、発症から43日目には減少傾向を示していた。

季節性のコロナウイルスについても、同じ型、または異なる型のHCoVに繰り返し感染する患者がいることから、HCoVに対する中和抗体は持続しない可能性が高い。しかし、感染してから時間が経っていなければ、同一または別のHCoVに感染するリスクは低く、発症しても軽症で済むことが示されている。従って、子供ではCOVID-19の重症化が少ない理由の少なくとも1つが、比較的最近のHCoV感染にある可能性があると著者らは考えている。

原題は「Pre-existing and de novo humoral immunity to SARS-CoV-2 in humans」、概要はbioRxivのウェブサイトで閲覧できる。

引用元 : 日経メディカル コロナウイルスの抗体は交差反応するか?
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